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ほうじ茶の匂いがして

 僕は写真を撮られるのがすごく苦手な人間だから、学生時代の写真とかそういうものはたぶん一枚も残っていないし、だからこそ鮮明な記憶が残っている、なんてこともぜんぜんなくて。いま、一生懸命思い出そうとしたんだけど、アパートの近くにあったぜんぜん出ないパチンコ屋とほうじ茶の匂いしか出て来なかった。

 だから、そのことについて書こうと思う。
 アルバイトをして、「設定5ー6確定!」なんて札が刺さった台に全部持って行かれて、ふてくされて歩く道にいい香りがした。お茶屋さんで、手元に残った数百円で、ほうじ茶を買った。そういう日ってあると思う。同情の余地もなければお金もないけれど、何かの慰めがどうしても必要な日。量り売りのほうじ茶をちょっとだけ買って、石ころを蹴っ飛ばして帰った記憶が学生時代の「いい思い出」として出て来るようなおじさん(我ながら本当に哀れだ)に、なりたかったわけじゃないんだけど。みんなはそうならないで済むといいと思うんだけど。

 本当のことを言うと、鰻が食べたかった。お茶屋さんのすぐ近くには焼き売りの鰻屋さんがあって、それは僕の学生時代における最大のご馳走だった。キモ焼きと鰻(並)を買って帰って、ビールを飲みご飯を食べる。でも、パチスロで負けてしまった日にそれは出来なかったから、家に帰って非常食(常食だったかもしれない)のシリアルを食べて、ほうじ茶を淹れて飲んだ。

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発達障害ライフハックのような実用文章ではなく、僕がライフワークとして書きたい散文、あるいは詩に寄っていくような文章を書いております。いろいろあって、「善い文章」を目指して書くようになりました。ご興味ありましたら是非。

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