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死んだ猫と暮らして

 ずいぶんむかしのことだけれど、死んだ猫と一緒に暮らしていたことがある。どんな縁で知り合ったかも思い出せないくそみたいな人間が、「猫が死んだので事後処理を請け負って欲しい」とかそんな話を持ってきた。ウチには死体を埋める庭もないし、どうしたらいいかわからない。何より最近同棲を始めた女が怒るんだ、汚いから早く処分してこいって。なるほど、それは大変だね。1万円で請け負ってもらっていいかな。2万円なら。しょうがない。そんなわけで、使い古されたバスタオルにぐるぐる巻きにされ、肩掛けのドラムバックに詰め込まれた彼女が我が家にやってきた。背中の骨が浮き上がるまで痩せこけた身体を、ところどころ皮膚炎で抜け落ちたぱさぱさの毛皮が覆っていて、小さな口からは舌がこぼれ、開いた目はもうどこも見ていなかった。何事も見た目で決めつけるのはよくない、それはそうなのだけれど。控え目に言って、幸福な一生を送った猫には見えなかった。

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発達障害ライフハックのような実用文章ではなく、僕がライフワークとして書きたい散文、あるいは詩に寄っていくような文章を書いております。いろいろあって、「善い文章」を目指して書くようになりました。ご興味ありましたら是非。

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