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噛みしめた日々
下顎の骨、そういうものが飛び出した。ずっと「親不知が生えて来たな、痛いなぁ」と思っていたのだけれど、触るとゴリッとして少しとげとげしいそいつは実を言えばそれは痩せきって膿んだ歯茎からはみ出した骨で、全身の倦怠感や一年近くもつきまとった疲労感はおなじみの鬱ではなく、抗体が菌と常に戦っていた証だった。僕の見ていないところで僕の身体はずいぶんがんばってくれていたようで、本当に申し訳がない。申し訳ない相手がどんどん増えていく。なんか口の中がいつもしょっぱいなとは思っていたのだけれど、インターネットを見たら親不知だって書いてあったので…。
今、僕はマウスピースを嚙みながらこの文章を書いている。大体コラムを1本書くと、市販のマウスピースが1つダメになる。お湯につけて柔らかくなったところを噛んで歯に合わせるお手軽なものなのだけれど、使い始めはずっと部屋にスクラッチ音みたいなのが響いていて笑える。いや全然笑いごとではないんだけれど。キュキュキュキュキュ、キュキュキュキュキュキュキュ。なるほどね、僕は噛みしめて文章を書いていたんだと妙な納得感があった。そりゃあ、口を開いたまま重量挙げなんてできるわけがない。文章を書く仕事はどこまでいっても重量挙げみたいなジャンルだ。必死に煉瓦を積んでいるつもりなのだけれど、どこまで積んでも錦糸町の路地裏みたいに見通しが悪い。そのくせ転げ落ちる恐怖だけはどんどん強くなる。いや、錦糸町は大好きな街なんだけどね。
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