61歳の食卓(3)普通の日のねぎとろ巻
特別な日の食卓にはマグロを用意する。
20代の終わり頃に、築地で初めて買ったのはマグロ。その後、働くようになって、マグロが身近な存在になった。以来、30年以上、マグロを食べ続けている。
それもそのはず、ここ築地はかつての東京都中央卸売市場築地本場、今もマグロ屋さんが軒を連ねる魚河岸なので、春夏秋冬マグロが入荷しない日はない。市場で働く人間にとって、盆も正月も誕生日も父母の日も、結局手近なマグロが食卓の主役となる。
「マグロは、なんだかんだ言っても飽きないからね」
コロナで個食を続けた昨年は、出勤前に弁当箱に白いごはんを詰めて持参し、毎日のように一人分のマグロパックを買って食べていた。不思議な事にマグロは連日続けて食べても飽きずに美味しく食べられる。シャケを商う自分が言うのも何だが、ご飯にシャケとはまた一線を画し、マグロならではのちょっとした贅沢感を味わえる。数ある魚のなかでも、日本人のダントツナンバーワンであることを認めざるを得ない。魚の王者、魚河岸の花形はやはりマグロなのだ。
普通の日に食べるマグロは、落とし・中落ち・ヘッド・頬肉など。割安な部位に、少し手を加える。筋の多い身を包丁で叩く。自分の鮭切り出刃は厚く重いので、まな板に載せたマグロの上で刃先を起点にしてテコの原理でトントンと叩いているうちに、身はトロッとしたペースト状になっていく。ここに、白ネギを加える。あえて白い部分だけ粗くみじんに切っておき、マグロと同量、いやもっと多くて良い。さらにトントンと、マグロの身の上で叩き混ぜれば、ツヤっと輝くねぎとろの出来上がりだ。
さあ、海苔巻に!
焼海苔を真半分に切り、巻き簾の上に縦に置く。細巻きを作る際の横向きではなく、縦長に置く。後の手順は細巻きと同じ、ご飯を海苔の上に平たく馴らす。中央にねぎとろを載せてクルッと巻き2等分すれば、巨大なねぎとろ海苔巻が、ハイ!出来上がり。
さあさあ、大口を開け、誰の目も気にせずかぶりつけ。
漆黒の海苔に包まれた真白な鮨飯から溢れる真っ赤なマグロにネギの旨味が沁みて、それはもう極上のごちそうだ。
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