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ポール・マッカートニーあるいはフランツ・カフカ The Long And Winding Road/The Beatles <あの名曲を日本語で歌ってみる> 

はじめて「Let It Be」というアルバムを聴いたときには、制作された経緯などは知らず、たんにビートルズ最後の作品だと思っていた。なにせ「Abbey Road」の完成度が高かったので、解散のゴタゴタなどもあって、寄せ集め的なアルバムになったのだろうくらいに思っていた。

後になって、この曲に関しては、フィル・スペクターが断りなく勝手にオーケストレーションをオーバーダブしたことに、ポール・マッカートニーが激怒したというエピソードが有名になった。近年、ネイキッド・バージョンが公開されて、それを聞いてみると、たしかにシンプルでいいと思う。

とはいえ、聴き慣れたオーケストラ・バーションがダメとは思えない。ビートルズの曲としてオーケストラは異例なので、いくらか違和感がなかったわけではない。が、この曲はオーケストラをバックにポールが切々と歌いあげる趣向なのだと納得していた。

ちなみに、オーバーダブを必要とした理由が、ジョン・レノンのベースの演奏ミスを誤魔化すためだったという話もあるようだ。1970年当時、ベースだけのトラックを修正するなんて、出来なかったのかしらん?

歌詞についても憶測があり、ジョンがポールを嫌うようになって、ポールがジョンに対して「君のところへ導いてほしい!」と切々と訴える歌だという解釈もあったと思う。そのころ、ビートルズがなぜ解散することになったのか、あれこれと詮索するのがファンやメディアの楽しみでもあったから。

しかし、そういうのって、恋の歌を書くのは、必ず恋愛の真っただ中だと決めつけるようなもの。そうだったかもしれないし、そうじゃなかったかもしれないわけで、他人があれこれ推測してみてもはじまらないことじゃないのかな。もちろん憶測を引き寄せるのは、スターである証だから、とやかく言うことでもないわけだけれど。

まあ、そういう経緯などはともかくとして、いい曲は、やはり、いい曲なのだ。後にポールは、こう語っているそうだ。「哀愁のある曲。僕はこういう曲が好きだ。・・(略)・・自分にはどうしても手の届かないものについて歌った曲だ。決して辿りつけない扉、そして延々と続く道についてのね。」

はるかな扉へ向かって延々と続いてゆく道、けっして目的地へ辿り着くことができない道、すこし見方をかえて抽象的なイメージのほうへ引き寄せると、フランツ・カフカが紡ぎ出す物語に通じるところもあるような気がしてくる。たとえば、「門番」という小品、目の前の自分専用の門に入ることができない男の話。あるいは測量士として招聘されながら城に辿り着けないKの物語、未完の長編「城」。ポールがそんなことを意識したかどうかということではなく、ある種の普遍的テーマに触れているという意味だ。

いや、この曲調からして、カフカは無関係でしょ、さすがに・・・というのもごもっとも。ぼくも、そう思う。けれども、ことばというのは喩としての本質をもっているので、書いた本人が何をイメージしたかにかかわらず、ことばが、それを発した本人の意識の外にあるものを指し示すということは、大いにありうることだ。

ことばも音楽も、それを発信した側がイメージしたことと、受け取る側がイメージすることとが、必ずしも一致するとは限らないんじゃないかな。いやむしろ、それが必ず一致するようにしようとすれば、作品が単一の意味しかもたないことになってしまって、けっきょく詰らない作品にしかならないということもあるんじゃないかな。

この作品で作者はいったい何を表現したかったのか?という問いは、とてもポピュラーなもの。表現物に対するアプローチとして、有効な問いであることは確かだろう。でも受け取る側が、発信する側の意図やイメージをリニアに受け取ることが、目指すべき正解だというのはずいぶん不自由な考えだなと思う。本来、表現されたもの(作品)はオープンソースであるべきで、たくさんの人がいろいろな解釈でその作品を受け取り、そこに多様な意味や価値を見出してゆくことができれば、それがいちばんだと思う。そういう多様な解釈に耐えうるだけの“質”をもっていることが、“いい作品”の条件なんじゃないかな。


<長く険しい道>

はるか遠く
途切れることなく
道は見えているけど
ぼくはここに立ち尽くしている
あなたのところへ続いてゆく道

窓をたたく
激しい雨に
泣いて泣いて涙で
やがて夜が明けてゆく
辿り着ける場所を教えてよ

ぼくは独りで迷い足搔いて
あなたはたぶんそれを知らない

でもまたこの道へ
長く険しい
ぼくはずっと昔に
ここに置き去りにされたままで
だからお願いそこへ連れていってよ

ここで待ってるから

<The long and winding road>

The long and winding road
that leads to your door
Will never disappear
I've seen that road before
it always leads me here
Leads me to your door

The wild and windy night
that the rain washed away
Has left a pool of tears
crying for the day
Why leave me standing here,
let me know the way

Many times I've been alone
and many times I've cried
Anyway you'll never know
the many ways I've tried

And still they lead me back
to the long and winding road
You left me standing here
a long, long time ago
Don't leave me waiting here,
lead me to your door

by John Lennon & Paul McCartney


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