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写心を追い求めて40年


40年前、地元福井の最前線で未来に残る事実を伝えたい。
そんな意気揚々とした思いで、迷わず報道の世界へ飛び込んだ。
定年するまでの40年間に、幾つかのターニングポイントがあった。

1980年12月〜81年3月。
いきなり、「56豪雪」だ。
一夜にして生活がマヒし、マイカーを掘り出して社に向かうものの、時間だけが過ぎるだけで車は一向に進まない。
助手席に転がったカメラを横目に、
「現場とはこういうものなのか」
途方に暮れて何も出来なかった。
何を撮ればいいのかさえ分からなかった。
その時の悔しさが今でも心の奥底に残っている。

1997年1月〜4月。
ナホトカ号重油流出事故では、年明け早々、日本海の冬の荒波に耐えきれず沈没した老朽タンカーの船首部分が北上して福井県沖を漂流しているとの一報を受けて、ヘリに飛び乗った。
三国町雄島を遠くに望む遥か沖合で漂う船首を発見した。海上保安庁の巡視艇が監視していた。
撮影しようと窓を少し開けるや否や、ものすごい強風にカメラをもっていかれた。機体も安定しないが、構えるカメラも安定しない。
ヘリの燃料も気になる。撮影時間はそんなにない。
船首上空を一回り二回り。
「このままならさらに北上を続けて福井県沖を去るでしょう」
「戻りましょう」
数時間後、
潮の流れが変わった日本海の荒波に戻されて、三国町安島の海岸線に〝悪魔〟は漂着した。

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真っ黒の重油との闘いが始まった。
まず現場に入って目に飛び込んできた光景は油まみれの海鳥たち。なかなかシャッターが切れなかった。
来る日も来る日も、重油まみれの年老いた漁師や海女の苦痛に歪んだ表情を目の当たりにした。
「もうおわりや。三国の海が死んでしまう」

「記録しなくては」
とにかくシャッターを切り続けた。
ある日、言いようがない虚しさに、気持ちがどうしようもなく上がらない自分に気がついた。

「これでいいのか」
「記録写真だけじゃダメだ」
「心で伝えないといけない」

写真は「心」で撮らないと、「心」に訴えかけられない。

この時から、
写真は写真にあらず、写心なり。
心でシャッターを切ることによって、初めて真実を伝えることができる。それが「写真」なんだと、心に誓っている。

2004年7月18日
未曾有の大災害「福井豪雨」。
早朝、激しく打ちつける雨の音で目が覚めた。

「尋常じゃない」
「これは大変な災害になる」

長年の感か。心の中でそう叫んでいる。

気がつけば車を乗っていた。途中、完遂した道路に突っ込んだのだろう、バンパーが外れて途方に暮れた若い女性が、水しぶきを上げて行き過ぎる車のヘッドライトに浮かび上がった。
急いで車を止めて土砂降りの中、夢中でシャッターを切った。

何時間か後、福井市内を流れる足羽川が決壊。街が濁流に飲み込まれた。


しかし、現場に出ることは許されなかった。刻一刻と現場から到着する悲惨さを極める現場写真の整理に忙殺される日々が続いた。

「現場に出たい」

2018年9月
福井しあわせ元気国体。

開会式当日、朝から土砂降りの雨。
「厄介な一日になるな」
と言うのも、
セキュリティー上、撮影場所から動くことが許されないのだ。屋根もなければ傘もさせない。
数時間の長丁場、カメラを雨から守ることが最優先となる。
案の定、全国から集まった周りのカメラマンのカメラが次々と動かなくなった。
40年前なら、こんなことにはならなかった。何せ、カメラは100%機械式。後日錆びることはあっても、止めることはなかっただろう。
現在の電子カメラは、防水対策を徹底して施されたプロ用機材と言えども、これほどの水滴の波状攻撃には悲鳴をあげる。
自分が立てた秘策は、タオル。
厚めのタオルでカメラ、レンズを覆う。
「水滴に弱いのなら水滴にしなければいい」
じわじわしみてくる雨なら、プロ用機材は耐えてくれるだろうと考えた。
交換用のバスタオルを何枚も用意して対応した結果、功を奏した。
カメラ、レンズともびくともしなかった。

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大会期間中、自転車、ハンドボール、ライフル射撃など、県勢の優勝シーンを数多く撮影することになったのだが、
2年後に定年退職を控えて、〝最後のご奉公〟と思って望んだ福井国体。
まさか40年の報道カメラマン人生の中でベストショットが生まれようとは。

連日、表彰台の一番高いところの選手たちとファインダー越しに向かい合っていた。
今でも瞼を閉じれば、選手一人一人の表情が鮮明に浮かぶ。

ライフル射撃成年男子決勝。全国から集まった一流選手たちとのし烈な戦いに挑んでいた福井の選手の最後の一発。
一人、一人と競技終了する中、最後に残った福井の選手は、打った瞬間、勝利を確信して小さくガッツポーズ。ホントにホントに控えめなガッツポーズ。
肉眼では分からない何十メートルも先の的の真ん中に空いた10点満点の小さな穴が、選手の横に並ぶモニターに満点を示す赤丸が大写しに
時間にしてコンマ何秒だったか。
この一枚だけは絶対に逃すことはできなかった。
選手が寝そべってライフルを構える顔も見えない地味な一枚だが、40年の報道カメラマン人生の中で、間違いなくベストショットだ。

写心とは。
どんなに美しく撮っても。
どんなにバランスよく撮っても。
どんなに決定的瞬間を撮っても。
心に残らない写真は写心ではない。

プロ(カメラマン)とは。
常に相手の立場に立つ人。
常に相手に伝えるための準備を怠らない人。
常に「〜かもしれない」「〜だろう」と行動する人。

写心もプロも、〝偶然〟はない。

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