いつかの白昼夢、記憶
小さい頃はよく、白昼夢を見ていた気がする。
もう忘れてしまったものが殆どだけれど、
一つだけ、はっきりと覚えている。
八月某日
刺さるように燃える陽射しを入道雲が緩和する。そんな日だった。
蝉の音に感覚を委ね、家まで真っ直ぐ歩く。
白いワンピースを着た少女が此方を見て哂っている。
陽射しのせいで顔は見えなかったが、
鈴を転がすような笑い声の片隅には儚さが漂った。
日が沈み出した頃、少女は泣いていた。
私は酷く虚しさを感じたが、この少女の事は何も知らない。
でも、消えてしまいそうに儚い彼女に、手を伸ばさずにはいられなかった。
手を掴んだ、はずだった。
線香花火が燃え尽きる時、火の玉が落ちないよう必死になって声をかけてしまう。
まるで最初から無かっただなんて思いたくなくて、涙は拭ってしまう。
一瞬の炗と知っても手離したくない気持ちだけが標本と化す。
何処からが夢だったかはもう覚えていない。
だけど、今でもはっきりと遺るあの儚さは
僕の胸を締め付ける。
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