水槽
息をしている。
濃度の薄すぎる酸素でずっと。
下手をしたら水を飲み込んでしまいそうで、
水に呑まれてしまいそうで、
慎重に慎重に、そして急迫に。
「昔、僕の父が言ったんです。魚は記憶力がたった3秒だって。」
「針に掛かった口の痛みすら、忘れるって。」
「忘れてはいけない何かも忘れてしまうって。」
「僕は魚だ。」
「忘れてしまうの?」
「忘れたい。」
「夢があるんだ。」
「花を見てみたい。」
「思い出せない。」
「記憶の中で眠ろう。」
「二度寝をするんだ。」
「馬鹿みたい。」
「魚だよ。」
「お隣さん家の犬が五月蝿いんだ。」
「何故?」
「飼い主の老婆は耳が悪くてね。」
「毎晩蓄音機が壊れる。」
「蝶になれたら。」
「夢物語はやめましょう。」
「僕をゆるして。」
「許すって何をさ?」
「僕が魚でいることを。」
「ここは壁の厚い水槽の中でした。」
追伸:切って貼った言葉で、僕が伝えたいこと。
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