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【感想92】ダンサー・イン・ザ・ダーク 

 今回は新文芸坐で2本割対象だった『奇跡の海』も見たけれど、併設のマルハンの喫煙所が外にあるおかげで”上映終了→喫煙所→トイレ→席に着く”でちょうどいい隙間時間の潰し方になるの個人的にありがたいわ。

他人に勧めやすい ★★★★★
個人的に好きか  ★★★☆☆

 鬱映画って言うほどじゃない。鬱屈はする。
前評判というかミームとして扱われているイメージとは異なって、ミュージカル映画っていう鬱屈系とは真逆のジャンルだけれども明らかに異質な空気感あるミュージカルが見どころ。
終盤の見せ方はマジで好きで、そこでやっと物語の全貌のつくり方に気づいてのめり込めたから好きだな~っていうのが正直な感想。
名作なのは違いないし、とりあえず百聞は一見に如かずってことで上映期間中に見に行ってほしいなって思う。


 先天的な遺伝によって徐々に失明していくことがわかりきっているセルマが、同じ病気に苦しむだろう息子のジーンのための手術代のために奮闘した日々を描く映画。
まず主人公のセルマの考え方が徹底的に独りよがり。個人的にここがネック過ぎて感情移入しなかったのは前評判と真逆の評価をしてる原因だと思う。
今後自分が失明するのはわかりきっているのに、友人のキャシー含めたわずか数人にしかその事実を共有していない。最悪誰にも言わなくていいとすら考えていて、作中シーンでのビルに失明することを打ち明けた時の理由の様に、生活に支障があるから明かすわけじゃないしどれだけ不都合があっても全部自分一人で抱え込もうとするような性格をしてる。

 それでも劇中の出来事が起こるまで生活できていたのはセルマの人の良さがあったからで、本来は心を開いちゃいけないような立場の人ですら少し関わっただけで絆されるほど慈悲ある人柄。どんなにセルマが頑固な態度を見せてもキャシーたちがセルマを助けようとするのがわかるぐらい、人の良さを見せるシーンが定期的に挟まれるのでそこも加味しつつ見てほしい。
そこを踏まえて、ラスト直前で問われる「自身の家系の遺伝がわかっていて子供を作ったのか?」の答えは噛み締めながらラストシーンを見守ってほしい。

 ミュージカルシーンの扱いはかなり意地が悪くて、個人的には全映画の中でもトップクラスで好きな構図だって言えるぐらい綺麗な構図になっている。
全体的にミュージカルナンバーが全く派手じゃない、かつ挿し込まれるタイミングがポイント。
ミュージカルシーンは全部セルマの空想なうえに曲自体もセルマの言動を肯定したり否定されることから逃げているような内容が流れる。実際、注意散漫が命とりな状況でミュージカルをやっている空想に熱中していたせいで仕事中に大ミスをしたりと、少なくとも前向きな背中の押し方はしていない。「これがセルマの思い描くミュージカルの限界」ていうのはいい得て妙だし、BGMの有無で本来の心境も見れるのは面白いところだと思う。

 ラストはビョーク本人が直訴してすり替わった展開らしいけれど、これに関してはビョークが悪手を打ったとしか言いようがないぐらいにはラストの展開に水を差す要素になってるからやめてほしかった。
なにも救いがない、ていうのも嘘になるし一貫していた描写の仕方も例外が出来て異質さが目立つのでどこがそのシーンなのか?は見当がつきやすいと思う。


 映画そのものに忌避感がない人は見て損はない映画だと思う。
どういう映画と捉えるかは人それぞれだけれど、そこも含めて人と話すのにもいい映画だとは思う。

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