武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースクリエイティブリーダーシップ特論 第7回 土屋尚史 氏

20190529 土屋尚史氏

日本の起業家。株式会社グッドパッチ(Goodpatch Inc.)代表取締役社長兼CEO。長野県佐久市に生まれる。長野県野沢北高等学校を経て2006年関西大学社会学部中退。ネクシィーズグループの子会社イデアキューブ株式会社(現株式会社ブランジスタ)に入社。その後、株式会社フィードフォースで働いた後に大阪のWebデザイン会社に入社、Webディレクターに転身。2011年3月にサンフランシスコに渡米。btrax Inc.にてスタートアップの海外進出支援などを経験し、2011年9月に株式会社グッドパッチを設立。自社で開発しているプロトタイピングツール「Prott」はグッドデザイン賞を受賞。海外拠点として、ベルリン、ミュンヘン、パリにオフィスを展開。2018年にデザイナーに特化したキャリア支援サービス「ReDesigner」を発表。(Wikipediaより引用)


1 Gooodpatch

土屋氏がCEOを務める株式会社グッドパッチは、「ハートを揺さぶるデザインで世界を前進させる」というビジョンと「デザインの力を証明する」というミッションを掲げ、新規事業の立ち上げやデザイン組織構築支援など幅広いプロジェクトを手がけている。UI/UXデザインを強みにしたプロダクト開発でスタートアップから大手企業まで数々の企業を支援しており、スタートアップ初期のGunosyやマネーフォワードなどのUIデザインを手掛け話題になった。

現在、過去に関わったスタートアップ企業のうち、5社が上場しており、創業から5年で100人を超える会社に成長した。順調な流れに見えるが、企業規模が60人から100人辺りのときに組織の崩壊の危機があったらしい。現在は組織を立て直し、150人以上のグローバル企業に成長した。(参考 https://www.fastgrow.jp/articles/tsuchiya-yanagisawa-takano )


2 アントレプレナー✖️イノベーション

グッドパッチを起業した土屋氏は、過去も現在も人々の生活や世界を変えているのは、スタートアップだという。土屋氏の考える、アントレプレナーシップ(起業家精神)とは何か。
ハーバード・ビジネススクールの定義では、「コントロール可能な資源を超越して機会を追求すること」がアントレプレナーシップだという。つまり、起業家でなくとも、この精神をもって行動することでイノベーションを生み出すことができるという。大企業などの組織にいても、アントレプレナーのように考えて事業を作れる人が大きなことを成せるということだ。土屋氏は、具体的な「アントレプレナーシップ」の重要な要素として、以下の4つを挙げた。

2−1 Whyからはじめる 

「起業家は必ず強いWhyがある」と、土屋氏。WhyにはPurpose(目的)、Belief(信念)、Cause(大義)、Story(ストーリー)、Dream(夢)があり、起業家の多くが人生のWhy(目的)の重要性について語っている。

特に、人間は感情で意思決定をするし、情緒的な価値が重要になっている現代では、Whyがなければ人は動かないという。また、迷った時にはWhy(原点)に立ち返ることが大切だとも言う。

土屋氏は自分の人生を振り返り、人生は3万日で大卒時には残り2万日。夢中になって追いかけるものを見つけることができたのは奇跡だが、人生の目的を誰もが見つけれる社会にしなければならないと語った。教師という立場にいる私にとって、とても印象的な言葉だった。

2−2 領域を超える

領域を超えたことで世界を変えたアイデアとして土屋氏は「アマゾン」を挙げた。ECの会社がクラウドサービスを作ったことで、クラウドが一気に広がるきっかけになったという。

新しいビジネスの創出やイノベーションを起こすチーム・個人の特徴は、「越境性」と「超越性」であり、領域を超えるためには、

①領域を超えるチャレンジ精神
②コンフォートゾーンに留まらない
③多方面への好奇心を持つ

が大切であり、グッドパッチでも領域を超えるために職種を超えてチームを組んでいるらしい。(UXデザインはユーザーの体験を最大化させるためにあらゆる部署を飛び越える事が求められる仕事)

「枠の中からどうやって飛び出すかが重要。技術に感性を結びつけると、大きな飛躍ができる。」という井深大氏の言葉を紹介された事が印象的だった。

2−3 逆張り思考

・大きな流れ(マーケットで王道とさている事)を理解して逆張りをする。

・世の中のバイアスを見極めて、半歩先のニーズにBetする。

と土屋氏。グッドパッチでは、ベルリンにオフィスを出す会社なんて聞いた事がないと言われていても、ベルリンにオフィスを出した。みんながダメと言ったり、非合理的だということをあえてやることで価値が生まれる。誰もやらないからこそ、独自の価値が生まれるのである。

2−4 不撓不屈の精神

・あらゆる困難に対しても立ち向かい、成功するまでやり続ける。

・人はトライアンドエラーの数だけ成長できる。

過去にない速度で成長するslackを例に出し、語ったくれた。起業家とデザイナーは未来を見る力をもっているという点で似ているのだという。これからは、デザイナーが世界を変える時代である。


まとめ

土屋氏が話された「アントレプレナーシップ」は、今日の教育でも求められていることである。昔から子どもたちには、「知・徳・体」のバランスをもった「生きる力」が必要であるとされているが、まさにその「生きる力」こそが「アントレプレナーシップ」に通じるものであると感じた。

とするならば、その力を身につけさせようとしている教師側にも「アントレプレナーシップ」が必要なのではないか。公教育の現場は、例年踏襲が多いし起業家精神の文化からは最も遠い環境にある。もっとも、普通に働いていると教師が「アントレプレナーシップ」という言葉や概念を意識することもないと思う。

教育を行う上で、いろいろな考え方をもった人がいることが重要だと個人的には思うので、全ての教師が「アントレプレナーシップ」をもつ必要はないと思うが、そもそも「アントレプレナーシップ」という視点で公教育を捉えることがなかったことを考えると、公教育が変わっていく為のヒント・キーワードの1つになるのではないかと感じた。


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