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[寄稿] 性暴力被害者へのグルーミングと「市井の女」の口を塞ぐ戦略のカルト性について 2023.7.25

性暴力被害者の会 代表 郡司真子

1 はじめに


「性暴力被害者の会」は、その名前の通り、性暴力被害者による任意団体です。性暴力被害者に冷たい司法や社会を変えることや被害者視点の法整備、性暴力二次加害を規制する法整備を目指すために運動を続けています。どこからも支援を受けずにサバイバーが自主的に集まり、テーマごとに連帯し、声を上げてきました。アダルトビデオ出演被害防止・救済法とその見直し審議についての交渉、ホスト・メンコン・メン地下被害問題、「不登校特例校のつどい」開催による二次加害問題、刑法改正不同意性交等罪及びグルーミング罪創設の際に、逆境環境、発達特性、性暴力被害者の性的自傷、トラウマの再演が搾取されている問題、こども間性暴力、発達特性ある女性がテレビドラマなどで当事者消費されている問題などについて、関係省庁や議員、メディアなどに交渉を行なってきました。私たちサバイバーが緩く繋がりながら、性暴力の問題に声を上げていく中で、ネット右派や性産業関係者、表現の自由戦士と呼ばれる人たちからの揶揄や誹謗中傷などのバッシングを常々浴びてきましたが、ここ数年、右派以外の奇妙な妨害や嫌がらせが続いていることに気づきました。

2 性暴力被害者を分断する性自認至上主義活動家たち


LGBT理解増進法をめぐって、「女性と子どもの安全を守って欲しい」と、多様な人たちが声を上げました。その中には、市井のフェミニストとして運動を続ける性暴力被害者も大勢います。サバイバーだからこそ、「身体男性の加害性に怯える女性」に寄り添ってきました。性被害の影響により、身体男性を見るのも、空間を同じくすることにも恐怖を感じる症状は、トラウマの影響、PTSDの症状として、医学的にも明らかになっています。身体男性への恐怖は、「ぼんやりした妄想」でもないし、「無知による根拠のない不安」ではありません。社民党大椿副党首がLGBT法案に関する活動で言い放ったような「お前がその不安に向き合え」という暴言のように被害者自身が向き合って自助で簡単に解決できる問題ではないのです。私たちは、性暴力被害に遭った当事者として、事実と研究成果に基づき、トラウマの追体験を強いられる差別と女性スペースで性犯罪が実際起きていることを問題視しています。


性暴力被害者への理不尽な批判は、性自認至上主義派が以前から性暴力被害者団体や著名なサバイバーの口を塞ぐ手段として用いられてきました。2023年5月に行われたLGBT当事者4団体による記者会見でも「現在性暴力の被害者はトランス差別として批判の対象となっておりその弊害は性被害に苦しむ女性被害者を沈黙させ攻撃している」という指摘がありました。

https://reduxx.info/japan-rape-crisis-center-denied-funding-after-founder-denounced-as-transphobic/


LGBT法案審議で焦点となった女性スペースに関する問題は、2021年7月に公共の女性スペースを守る運動でも波紋が広がりました。公共の場や職場での女性トイレ、女性スペースがじわじわと縮小される懸念からTwitterハッシュタグデモが行われました。私は、当時、ジェンダーアイデンティティについて、立場も表明していませんでした。放送記者時代、取材現場でレイプドラッグ性暴力被害に遭ったサバイバーであり、我が子も通学電車内の痴漢被害から不登校になったこともあり、性暴力被害者当事者団体で自助グループも開催しており、多くの被害者が身体男性に恐怖感があり、女性トイレ、女性スペースは、減らしてはならないと考え、女性スペースを守るためのTwitterデモに参加しました。


その時、性自認至上主義活動家から突然、「女性スペースを守る運動は、トランス差別者が行なっているから、賛同のツイートを消して欲しい」という内容のDMが複数回届きました。「女性スペースを守りたいという運動が、なぜ差別なのか」と私が尋ねると、「長年酷いトランス差別をしてきたアカウントだから」という回答でした。トランス差別者として、いくつかのアカウント名が挙げられ、「トランス差別者だから、絶対に『リツイート』したり『いいね』をしてはならない」というアドバイスとともに、差別者アイコンを見分ける一覧表も示されました。同時に、すべての差別に反対を主張する男性アカウントからも「女性は数として圧倒的にマジョリティなので女性スペースなど主張すべきでない、配慮すべき」などと、執拗に絡まれました。最も信頼していた性暴力被害サバイバーからも「トランス差別に反対します」とツイートして欲しいという要求DMが届き、懇意の女性記者からも「トランス差別に反対しますと発言することは重要」などと助言されました。当時、性暴力被害者同士のシスターフッドを大切にしなければという思いが強かったことと、すべての差別に反対の男性アカウントから、あまりにも酷いリプライが続き、彼らが求める主張にそって、謝罪してしまいました。あの時、私は、あまりにも性自認至上主義活動家の戦略について無知だったことを、今では後悔しています。


性自認至上主義活動家の手口は、まさにDVや性暴力加害者によるグルーミングと同じです。彼らの手法が丁寧に説明されたページがあるので、私のように被害に遭う前に、多くの人にこのやり口の加害性を知っていただきたいです。

◆トランス活動家が使う手口はDVや性暴力加害者と同じー仲間意識の押し付け、フェミニズム、LGBそして「トランスの権利」 By Dr Em 2022.7.30

https://note.com/seibetu/n/n8bf747df7b49


私には、トランスを自認する親族が複数いることや私も思春期には性自認が揺らいだ経験から、もともとは、トランス差別には反対してきました。しかし、女性スペースを守ることも大切だと、切実に感じています。「なぜ、女性スペースを守ることがトランス差別になるのか」と、性自認至上主義派の友人たちに尋ねると、ほぼ同じ回答なのです。とっても奇妙に感じていました。「スペース、トイレ、風呂の話をするのはトランス差別、この話をするアカウントは、長年苛烈なトランス差別をしてきたから、RTもいいねもしてはいけない」どこかの誰かが決めたようにピタリと同じセリフなのです。


この言い回しを別の場面でも聴いたことがあります。報道の自由を守る署名運動を行なった際に私と家族は、強烈なネトウヨ攻撃に遭い、同時に右派ネットニュースメディアからの誹謗中傷被害に遭っていた千田有紀さんとTwitter上でやりとりしていました。それを見た友人のライターたちから、「あの研究職は苛烈なトランス差別をした人だからかかわっちゃだめだよ」とDMが届いたのです。また、2022年6月、AV出演被害防止・救済法成立の際に抗議の院内集会を開催した際も、反ポルノ運動の論客である森田成也さんが登壇することを知った性自認推進派の知人らが「あの研究者は苛烈なトランス差別者だから呼ばないで。運動に支障が出る。」という連絡が入ったのです。「具体的にどのような差別があるのか、何が差別なのか」を性自認推進派からは示されることはなく、いつも同じような「苛烈なトランス差別」という言い回しが発せられたことに驚きました。


性自認至上主義派方の要請内容は、いつも以下のとおり。

・女性はマジョリティだから、マイノリティに配慮すべき。

・トイレ、スペース、風呂の話をするのは差別。

・差別者は長年苛烈な差別を続けている。

・勉強しろ、アップデイトしろ、立ち止まって下さい。

・差別者の本の背表紙写メをインターネットにアップするのも差別。

・RTするな、いいねするな、ノーディベート、差別者め、ヘイター!


しかしながら、彼らから、なにが差別なのか、具体的に示されないのです。あまりに不可解に感じました。

3 イギリスで起きた事実を紹介したら差別者リストに掲載


2022年に入り、先にLGBTに関する法整備が進んでいたはずのイギリスとアメリカでは、性自認至上主義活動家の問題や包括的性教育の問題から、女性と子どもの権利や安全を守る方向に転換し始めました。その海外ニュースをTwitterで紹介し始めた途端に、私は、差別者リストに載せられたのです。イギリスとアメリカでの事実を伝えたことがなぜ、差別にあたるのでしょうか。同時に性自認推進派アライを標榜する友人たちからは距離を置かれ、性暴力被害者の友人らも私がリプライするたびに、まともに返事をせずに「トランス女性は女性です」などと書いて返すようになっていきました。「あなたと仲良くしているのを見られたら、自分までカルトから攻撃されるので、表立って仲良くできないが、応援している」と、連絡してくる友人は、まだ良心的な方で、多くの友人は、無視というありさま。


こういった吊し上げや仲間はずれ、理由を明確にせず差別者扱いする行動は、小中学生のいじめの風景と似ています。弱った状態の性暴力被害者に寄り添うような形で近づいたり、性加害の後遺症から立ち直りかけ、性暴力と二次加害への抗議運動を始めると、そっと性暴力被害者の運動に入り込んでくる性自認至上主義活動家たちは、被害者に対して、「女性はマジョリティ、もっと可哀想なマイノリティのために声を上げて」と、「後ろめたさ」をすり込み「優しさ」「共感性」を搾取します。性暴力被害者は、共感性が強く繊細で優しく、他者に丁寧でありたいと考える人がとても多いのです。その善良さが利用されてしまっているように見えます。「女性被害だけでなく、男性被害もある」「性暴力被害だけでなく、すべてのハラスメントに反対しなきゃ」と、「女の被害」を消そうとしてきます。このような性自認至上主義派の行動について笙野頼子さんは「女消し(メケシ)運動」と呼んでいます。最近では、酷いことに、性自認至上主義派から「トランス差別のために性暴力被害を利用している」という言いがかりまで出てきました。メケシ運動は、性暴力被害者の口封じにまで悪質化し、著名サバイバーへのグルーミングが積極的に行われています。

4 家父長制の侍女・父の娘


サバイバーに近づく性自認至上主義派活動家は、優しい顔をしています。最初は丁寧に寄り添って、性暴力や二次加害に抗議する行動に積極的に協力する姿勢を見せます。資金力も潤沢で、グッズ制作やおしゃれなファッション誌や有名言論誌へのコネクションも豊富だとアピールしてきます。性自認至上主義派の活動家たちは、メディアで活躍中のインフルエンサーや有名大学の学者でもあり、後ろ盾の盤石さや煌びやかな人脈があります。毎日DMを交わす親友のように仲良くなったところで、バウンダリーを超えて、性自認至上主義の運動に巻き取っていきます。巻き取られていく著名サバイバーは、決まって独特の合言葉を発信するようになります。すかさず活動家コミュニティでは賞賛され、派閥の一員として評価が高まっていくようです。このような手法は、実際に彼らが企業戦略で用いる指標と同じです。性自認至上主義派からの評価をインセンティブとする内申点のような仕組みと見て良いでしょう。だからこそ、報酬系の刺激に敏感な人ほど、性自認推進派の指示通りの発言をSNSで展開するようになっていくのでしょう。


私は性暴力被害者の団体のほかに、生きづらい子どもの親の会や不登校の子どもを育てる親の会にも関わっていて、似たような光景を見たことがあります。女性ばかりの会に男性が入り込もうとする時に、まさに性自認至上主義派の運動の乗っ取りと同じで、仲間意識を利用してグルーミングしてきます。


右派がフェミニズムを攻撃するのとは違い、性自認至上主義派はリベラルや左派の仮面をかぶり、フェミニズムに入り込み、内側から乗っ取るという手法をとっています。これはまさしく、男が女の運動を乗っ取る男権拡大と言えます。日本のアカデミアフェミニズムが「みんなのフェミニズム」を唱え出したことでこの乗っ取りグルーミングは、ほぼ完了し、アカデミアフェミニストたちの多くは、家父長制の侍女・父の娘として、この乗っ取りに順応してしまっています。そして、性自認至上主義に抗議する「市井の女」「市井の人」を揶揄し始めました。性暴力被害者を「差別者」として口を塞ごうとしてきた勢力が、今度は、「市井の女」「市井の人」を黙らせようとしているのです。

5 日本はあまりにも遅れている


性自認至上主義派が家父長制の侍女・父の娘を使って「市井の女」「市井の人」を黙らせたい理由は、何でしょうか。2022年から2023年にかけて、イギリスやアメリカでは、市井の女性による抗議から、女性の安全や権利、包括的性教育の危険性が注目されるようになってきたからではないでしょうか。実際にイギリスは正常化に舵を切り、国際的なスポーツ競技団体は、生まれながらの性を尊重する決定が続いています。欧州や米国でも市井の保護者が立ち上がり、危険な医療からこどもたちを守るための法整備が成立し続けています。性自認至上主義派の主張に対し、疑問視する一般の人たちの良識ある声が高まりつつあります。性自認至上主義派が性暴力被害者や市井の人に対して「差別の煽動だ」と糾弾する姿にカルト性を感じる人が増えてきていることは、日々の生活の中で感じ取れます。


2000年代初めにヒトゲノム解読が完了したとのニュースがかけめぐり、科学技術の世界では、それまでの概念を覆す革命が起きたと考えられています。人間のDNAの仕組みがわかったことで、宗教や呪術で信じられていたような迷信や近代科学の盲信が200年くらいの時間を経て多角的に吟味され、否定され、科学技術が洗練してきた背景が欧米にはあります。科学技術が時間をかけて学ばれた欧米では、科学や新しい言説は必ずしもまともな方向に進んだわけではないことを市民は知っています。錬金術や魔術や呪術などの危うい方向にコースアウトするものもありました。ゆえに、欧米の人たちは、何か一つの方向性にみんなでつき進むのではなくて、検証が必要だと学んだのです。それがイギリスで起きた正常化の波であり、国際的なスポーツ競技での女性の権利保護であり、包括的性教育の問題露呈であり、性自認医療の危険性への指摘です。これらは、市井の人、市井の女からの抗議の声で実現していっています。一方日本は、幕末ごろにようやく科学に目覚め、欧米から入ってきたものを疑いなく受け入れてしまうような背景を持つ人たちが多いように感じます。欧米に遅れてはいけないという焦りが、もう何周も遅れた議論のまま、リアルタイムで欧米で起きている事実を見る眼を失っている状態です。性自認至上主義に関して、日本で主導しているのは、性自認至上主義ビジネスに乗っかった人文系の学者たちであることを注視すべきでしょう。人文系学者は、なぜ、自分たちだけが正しいと考えてしまっているのか、甚だ疑問です。日本でも、精神医学や心理学の臨床を学んだ人たちの多くは、性自認至上主義派の主張に疑問を持っています。特に、発達特性や性暴力被害者のトラウマ治療を専門とする医療者や研究者たちは、性自認至上主義派の主張を批判的に見る傾向が顕著です。しかし、性自認至上主義派は、絶対的に異論を認めず、「差別者」として糾弾するカルト的な手法で対抗しているので、まったく有意義な議論になりません。そして、性自認至上主義派は、リベラルメディアを制圧しています。この流れにカルト的な怖さを感じ、立ち上がる人たちの声は、なかなか報道されません。でも、おかしいことはおかしいと言える時に声をあげておかないと、何も言えなくなってしまいます。とても恐ろしいことに、自民党の一部や竹中平蔵などの新自由主義者は、性自認至上主義派です。性自認至上主義派の多くは、性売買合法化や代理出産合法化に賛成する人たちです。また、市井の女、市井の人の口を塞ごうとする人たちは、ペドフィリアも多様性と認めています。さらに彼らのそういった考えの背景には、植民地主義や階級主義を感じます。

家父長制・女性差別がまだまだ強烈な日本では、性自認至上主義の前に、まず、女性差別を解消する必要があります。性暴力被害者に冷たい司法や社会を変えなければいけません。女性と子どもの安全と人権を新自由主義ビジネスに売り渡してはいけません。日本経済の悪化に伴い、多くの貧困国で起きている悲劇を繰り返してはいけません。脆弱な女性と子どもが資源化されることがあってはならないのです。欧米で起きた正常化の波が、早く日本にも届きますように。

参考文献


ジュディス・L・ハーマン『心的外傷と回復(増補版)』みすず書房 1999年

ベッセル・ヴァン・デア・コーク『身体はトラウマを記録する』紀伊国屋書店 2016年

白川美也子『トラウマのことがよくわかる本』講談社 2019年

笙野頼子『女肉男食』鳥影社 2023年

滝本太郎『日本は一周遅れの議論を必死で追いかけている』デイリー新潮2023年7月20日号

https://www.dailyshincho.jp/article/2023/07201101/?all=1

斎藤貴男『リベラルによるリベラル批判「LGBT法」は是か非か。過激化する論争は不毛だ』文藝春秋2023年8月特大号 https://bunshun.jp/bungeishunju/articles/h6647

ヘイトを許さない一市民『TERFと呼ばれる私たち~トランスジェンダーと女性スペース~』デザインエッグ株式会社2023年

森田成也「トランス問題をどのように考えるべきか」2023年

毛利衛『日本人のための科学論』PHPサイエンス・ワールド新書 2010年

池内了『科学と人間の不協和音』集英社『「知」の挑戦ー本と新聞の大学ー』 2013年

郡司真子 note https://note.com/utss2020/n/n03c367afe5ec

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