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Monk's Mood~重力と浮力の狭間の音楽

一聴して「いい!」という分かりやすい音楽。なんならば一見して「いい!」となるものに音楽と振り付けがついている、そういうものが主流となった昨今、一般リスナーにとって #TheloniousMonk の音楽はどのように受け止められるんだろう?まずもって、一聴して「いい!」と言える音楽ではないことが断言できる。換骨奪胎してソフトにカバーされたものならいざ知らず、ご本人の演奏によるものはフリージャズとはまた違う難解さをもっている。

"Thelonious Himself" 1957

事実、リアルタイムではモンクのピアノは下手くそだと評価される傾向にあったようで、アルバム"Thelonious Himself"の日本語解説( #油井正一 )でも
「このアルバムがモンクをテクニックのないピアニストと考えている人への決定的な回答となっている」
と記されている。つまりモンクを「テクニックのないピアニスト」と考える人が一定数いたことが示唆されていることになる。つまり、ジャズがポピュラーな音楽であった時代ですらも彼の評価は難しいものだった、難解な音楽であったということだ。

かく言う自分も最初はジャズガイドブックなどを参考に、このアルバムを中古レコードで買ったものの、全く良さが分からず放置。月日を経て愛着を持てるようになった旨は以前記した。

そして最近思っているのは、

Thelonious Monkの音楽は重力と浮力の間を彷徨う音楽だ

と言うこと。

なぜここでその高音を出すのか?なぜそこで駆け上がり(下がり)アルベジオをやるのか、そのように聞いていると、例えば身体が持ち上がって心地よくストンと落ちるような感覚になる。不穏なコードの果てに開放感のある場所に辿り着く。その演奏はまるで数学の方程式を解いているような気分、でもある。彼には何か見えている「法則」があるんだろう。ロジックがあって出来た音楽ではなく、彼の音楽から導き出されたロジックは数多あるだろう(現在のジャズ教育現場を知らないので確かなことは言えませんが)

そしてここのところずっと練習しよう練習しようと思っていて、やっと練習してみたのが"Monk's Mood"、これがまさに重力と浮力、緊張と弛緩を行ったり来たりするような曲で、気になっていたのだ。

この曲は1947年にはBlue Noteから発表されていた、彼のキャリア初期からある曲だ。

これなどを聞くとまだムーディーな良き曲って感じ、それでも分かると思うが、頭が一番心地よく、3小節目以降不穏になっていき、また頭に戻ってきた時に心地よくなる。ブリッジは一瞬明るくなるが、すぐに不穏になって、、、また再び頭に戻った時にほっと落ち着くようなムーディーな開放感に戻るのだ。それをよりよく分かりやすく(ある種難解に)演奏されてるのがこの"Thelonious Himself"(1957年)収録の、 #JohnColtrane を従えたバージョンだ。

いやぁ、このバージョン大好きなんです。このアルバム自体はまた後日語りたいけれど、リラックスした緊張感(相反するけど)が続いてきて、アルバム最後にこの曲で心地よい終焉を迎える。なんですが、このJohn Coltraneのサックスの緊張感がまた心地よい。そしてモンクのピアノのアプローチも1947年よりは深化している。このクリック/メトロノームと無縁の、独自のタイム感(油井正一の表現を借りると「タイムコンセプションをもて遊んでいる」)が良い。後輩のコルトレーンが必死で「このタイミングですよね?」と言う感じで先輩モンクに追従している姿がここにある。

そしてこの年に彼らはカーネギーホールでライブを行う、その音源が2005年に発表されているんだが、これがまた面白い。

レコーディング以降に開催されたと思しきこのライブは、二人のタイム感がグッと近づいていることが分かる。そしてモンクがまた絶好調、機嫌良さそうなのが音で分かる。そして"Thelonious Himself"と同じ形で曲が進み、コルトレーンが後から加わる。音の響きがもう違う、自信を持って吹いている。それを聴いて更に気を良くしたモンクは、さらに自由に駆け上がるアルペジオ、駆け降りるアルペジオを連発連発、自由すぎでしょ!!てぐらいに。

面白い曲だと改めて思う。俺はモンクの曲は簡単な譜面も参考に見るけれど、基本身体に叩き込みたいので、演奏するときは譜面を見ないでやる。やれるようになるまで脳内リハと手のリハをやる。直近では5月の千葉かな。そこらへんからソロピアノの時間がある時は弾いてみようと思う。練習していても気持ち良い曲だからね。複雑なパッセージが少しずつ体に入ってくると、モンクがどんな迷路を突っ走ろうとしたのか?が微かではあるものの見ることができるから。

こんな音楽への接し方と出会えて幸せに思う。消費物としてではなく、身体訓練であり精神鍛錬であり、開放でもあるような音楽、Thelonious MonkのMonk's Mood、このムードをもっと出せるように頑張ってみよう。

最後に、自分がライブでThelonious Monkの"Ask Me Now"を弾いたものをどうぞ。2019年にCD&配信で発表してます。我ながらいい感じにモンクに歩み寄ろうとしてると思いますw


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