犬神家のおっさん
昨年暮れから年始めの冬休み。例年通りに三箇日は休んで~……なんてしてたらちょっと休みが長すぎて、いい加減ヒマを持て余したり、調子崩す人も出るんじゃないかと思って、スウィング史上初なんじゃないかしら、新年3日に自由参加の新年会を催した。
20名を超える「正月気分」たちが集まり、朝から呑んだり、お餅を食べたり、テレビゲームをしたり、ダラダラと流れる時間がすぎゆくのは、あっちゅ~間。でも、なぜか最終盤になってひっそりと上映されはじめたのは『犬神家の一族』、市川昆監督による2006年版だ。
「あ、これって横溝正史やんなー」
おおっと意外や意外、真っ先に興味を示したのはミサさんだ。
しかも「よこみぞせいし」って(奇跡的に)間違えずに言うなんて一体どうした?
「うち、けっこうミステリー好きやから。だから横溝正史も」
へ〜! そうなの!?
長い付き合いになるけどミサさんがミステリー好きだなんて、しかも横溝正史も好きだなんて全然知らなかった。なんか嬉しいなあ。
「え~と『八つ墓村』やろ~、『悪魔の手毬唄』やろ~」
おお! 知ってるヤツ言うヤツやな! いや、ノッて来たね!
次は?? 次は??
「『病院坂の首縊りの家』やろ~」
ちょっと、ちょっと待ってくれ。
びょういんざかの、くびくくりのいえ?
「びょういんざか」を、「くびくくり」を、一度もかまずに、一言一句間違えずに??
こんなにキレキレの彼女を目にするのははじめてだ。あまりにも、あまりにもピントが合いすぎている。
……何かクスリをやってる? いや、そんな人ではない。
……突然ゾーンに入った? いや、ある意味常時入っている。
……誰かに体を乗っ取られた? いや、前から頭の中にヒヨコが住んでいるらしい。
じゃあ一体、彼女の身に一体何が起こっているというのか???
年始早々の衝撃に震え、「ひょっとして初夢の中にいるのかもしれない」なんて現実から逃げようとしている僕を尻目に、彼女は『犬神家の一族』のDVDケースに歩み寄って手に取り、興味深そうに裏面を眺めている。
ふいに彼女の瞳が、何か大切な宝物でも見つけたかのように、キラリと輝きを増す。またハキハキと、淀みなく言いにくいヤツを言ってのけるのだろうか?
「お、松坂慶子、出てるやん」
どこに着眼しとんねん!!!
それ、おっさんが言うヤツやないか!!!
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