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忘れる帝国の繁栄

たとえば鍵とか財布とかスマホとかメガネとか水筒とか(水筒以外ヤバい)、あれ? さっきまであったはずがいつの間にか失くなって、探して探して思わぬところから出てきたりすること毎日のごとし。

昨日忘れたのは財布で、仕事を終えて買い物に訪れたスーパーマーケットに着いてから気がついて、ああまたか……と落ち込みながらスウィングに戻ったら、ここにあってください! と願いながら覗いたデスクの引き出しにちゃんとあった。

こういう一発クリアはとてもラッキーで、今日いつの間にか失くなって探し回っていたメガネは、ある隙間からあやちゃんが見つけ出してくれた。絵画制作に使う画材や道具を入れてるカラーボックスの中に置いた箱と仕切り板の間の狭い隙間だ。

なぜそんなところに置いてしまったのか全く覚えていないのも怖いが、それ以前に無意識のうちにメガネを外し、裸眼視力0.01になっていること自体を忘れていたのはもっと怖い。

ともかく一体どんだけ見えんねんと驚くばかりの視力と洞察力で、ワケ分からん隙間から発見してくれたあやちゃんはスゴい。

スゴいといえばミサさんの忘れる力も異次元だ。

彼女は毎朝の朝礼時、「昨日の晩ごはんメニュー発表」という自分だけのコーナーを勝手につくりあげているのだが、「まず○○で~……忘れた!」と開始間もなく2品目でいきなりブラックアウトした衝撃の発表には、その場に居合わせた不運な庶民たち全員が正面から強烈な爆風を食らってしまった(死者ナシ)。

いや、なんとなんと、奇跡的に全くダメージを受けることなく、いつもどおりにシャンと背筋を伸ばしているのは伝説のメガネハンター、あやちゃんじゃないか。

そして驚異の視力ではなく、ミサさんにすら引けを取らない天然を発揮し爆風をさらに巨大化する。


「いつの段階で忘れたんですか?」


はい??? 一瞬ワケが分からなかったが、どうやら「ミサさんが2品目を忘れたのはいつなんですか?」と尋ねているらしい。

なるほどぉ! ……ってならねーよ。

そりゃ絶対に正解かと言われたら困るけど、1品目を発表後、いわゆる「ド忘れ」をしたと考えるのが普通だろう。実に普通だ。普通でいいと思う。ときに普通は素晴らしい。

でもあやちゃんはもっと正確なタイミング、昨晩食後から発表までの間に忘れたのか? それとも食べてる最中に忘れたのか? いやいや食べる前からもう忘れていたのか? 多分そういうことを問うているんだと思う。なんなんですか、この尋常じゃない知識欲は。これ知ってどうすんですか?

でね、この質問に答えるためには2品目を忘れた瞬間、言うなれば「ド忘れの起源」を覚えとくか思い出さなあかんてことでしょう? それって逆にスゴい記憶力じゃない? ていうか人類の能力で可能?

ダメだ。意味分からんすぎて脳が壊れる。

ちょっと、おいおい、こらこら、ミサさんも「えっと~……」って上見ながら真面目に考えんでええから!! 

「忘れてしまった昨日の晩ご飯の2品目をいつ忘れたのかを思い出す」ってどういう行為やねん。

およそ常人には理解し得ないスゴい戦いを見た気がしたが、そういやその2時間ほど前、出勤したてのちょくちゃんの第一声もスゴかった。


「今日、クツ忘れてきてん!」


聞いたことねーよ。あなたどういう状態でスウィングまで来たのよ? 

ボウリング場からボウリングシューズのまま家に帰ったことはあるが、ちょっとレベルが違いすぎる。

助かる。自分よりスゴい(症状がひどい)人がこんなにたくさんいると非常に助かる。

助かるけど再スタートを切っておよそ2ヶ月。果たしてスウィングはだいじょうぶなのだろうか。来週、みんなスウィングを忘れずちゃんと来れるだろうか。

と、これを書き終わろうとした今、あれ? メガネはどこにいった……?

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