父親譲り。

おはよう。

中学高校の友達でこんなことを言う友達がいた。

「うちの女家系は全員が白目剥いて寝るから、私は絶対拾い子ではないんだよね。おばちゃんも、お母さんも、私も白目剥いて寝るの。」

ここは、腹を抱えて笑うところなんだが、本筋ではないので隠れて押し殺して笑っていていただきたい。
それを聞いた私は、その会話の中では爆笑していたが、ふと私は本当に両親の子供なのだろうか、と悲劇のヒロインぶった考え方を持ってみた。(拾い子の人生が悲劇とは、一概には言えないが。)

ま、そんなことを考えたところで無駄なのは、自明である。
なんせ、私は母親方の親戚に顔がそっくりなのである。私の姉は、父親方の親戚にそっくりなのである。
実の姉より、母方の親戚の従姉妹のお姉ちゃんと姉妹と間違えられるほど、私は母親方の血を引いているのだ。

それならばと、姉と私は両者の連れ子なのではないかと、さらに切り分けしてみる。これも想像するだけ無駄な結果に終わる。
私の性格は、父親譲りなのだ。

先日、自粛生活で、窓を開けていても息が詰まるなと思い、これは解放されたベランダで本でも読もうと思った。
いや、この映画を数年振りに観て影響されたからかもしれない。

どうせGWは、家に籠るのだと思うと、快適なお家空間を作らねばと思い立った。ならば、最上階の狭いベランダに、カフェ空間(夜はバー空間)を作れば良いのではないか!
早速、アマゾンで良さげな折りたたみ式のガーデンテーブルとチェアを探し、機械・建設業界出身の父親が遺した本格的なメジャーでいそいそとベランダの寸法を測ってみる。

うん、入る!

もう心はカートに入れるボタンを押しているつもりだったが、強敵がいた。
それは、ベランダにある小さなガレージだった。
折りたたみ式のガーデンテーブルやチェアを選んだのは、ベランダが狭いからではない。雨風に晒されて、さびていくのは御免だった。というわけで、このもう直ぐカート行きの商品たちを格納する場所を作らねばならない。それが、ベランダのガレージだった。

そこは、父と母が汗水流して建てたこの戸建てができてすぐに設けられたものだ。基本的に、ガレージ系は父親の隠れ家…というほどのスペースもないので、父親の宝の道具たちが潜んでいる。
しかし、父が亡くなって10年も経っているにも関わらず、そのガレージは誰も使わないがために整理されたことがない。

何度か母に「もう体力ないから、あの倉庫、誰か片してよ」なんて言われたものの、何が悲しくてあの埃まみれのガレージを掃除せにゃならんのや。と親不孝ものの娘は、目の前の忙しさを理由に重い腰をあげようとしなかった。しかし、GWの快適な読書空間を作るという明確な目標ができた今、私の腰は俄然、軽くなった。

そこで見つけた若かれし父のメモリーたち。
中学校の卒業アルバム。高校の卒業証書。大学の卒業証書。仕事でのノート。機械系の資料…そして、建築関連の書籍たち…
嗚呼、そういえば父は、冒険が好きだったよなあ。嗚呼、父は私が小さい頃に建築士の資格をとるために、懸命に勉強していたよなあ。この物差しも、この道具も、父の書斎に置いてあったなあ。
そういえば、父は柔道部だったっけな。私の体育会系の思考は、父から譲り受けたものだったよなあ。
そんなことを想いながら、さくっとゴミ袋に思い出の粗品を葬っていく…

いや、これが亡くなって2年とかであれば躊躇したものだよ。
でもね、もうおセンチになる期間はとうの昔に終わったのだよ。それに、おセンチになったところで、人生何も変わりゃしないのさ。時間は過ぎていくだけなのさ。

当時、台湾のお坊さんも言っていたのだよ。

「亡くなった方を大事に想うことは良いことです。でも、しっかりお別れをしたら、想う気持ちを減らしましょう。生きている自分たちのことを考えなさい。」

とね。今ならとてもわかるよ、お坊さんよ。
あれから、幾度となく父がおれば…なんて想うことは多々あったが、父が居たらできなかった経験もしてきたもんだから結果オーライ。

そんなこんなでガレージの整理をしていたら、書籍が沢山詰まった段ボールを掘り出した。うーん、開かなかった思い出たちは重いものだ。
段ボールのテッペンにある書籍を出して、笑った。

手紙実用文辞典

ん?父は、誰に何を書くのに困って買ったんだろう?なんて、パラパラページをめくっていて偶然目に入った「結婚の申し込み」という章。母に婚求する時にでも使ったのかしら。

いやいや、大事なのはそこではない。
私も数ヶ月前に、似たような辞典を買ったものだ。("手紙"ではない。)

ばっさー!と、埃がかった使われていない自家製梅酒の保存瓶に水をかけて綺麗にし、あれ、これの小さいのでレモネードのシロップ作ればいいんじゃない?なんて思っている私は、梅なのかレモンなのかのニアミスくらいな違いで父親と思考がそっくりだな、と。

ともあれ、こうしてベランダに自分の秘密基地となるようなカフェ空間を作ろうとしているところも、父親譲りなんだなあと思いながら、綺麗になったガレージに風を通しつつ、父が遺したコンパクトキャンプチェアに座って、ベランダからの景色を眺めた1日だった。

今日もいってらっしゃい
そして、おかえりなさい

文章にあった絵を書いてくださる方、募集していたり。していなかったり。