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陶器の家の火事_アイスなランド

冬は凍って、一面だだっ広いアイスなランドになる湖では、

夏にはたくさんの魚が獲れる。


けれど夏は短いので、たくさん獲って蓄えなければならない。


この地方では干物は燻製にする。

湖の周囲に生えている楓の木を薪にして。


しっかり乾燥させた楓は、煙にはならずに蒸気となって、大きな梁の通った天井に立ち昇っていく。


その蒸気の陽炎の向こうでは、窓に向かって外を眺めている子供の姿が見える。


白と青と朱の横縞のセーターに、朱色のパンツを履いたその子供が眺めているのは、

凍った湖の遥かさきの山脈の、その向こうでうす朱く染まった空。


北方の冬の、薄暮の空が朱いのは、山脈の向こうが燃えているから。


めらめらと、遥か昔から燃えている。


巨大な湖の端から端までよりも、まだ広く、

山脈の向こうは燃えている。


夏も冬も燃えているが、夏の陽射しのときには、

ちょうど楓の薪の蒸気のように、

陽炎をつくって揺らめいている。


夜になれば、煌々と煌めく紅蓮色となるが、

冬の薄暮の発光は、陽炎をまとった朱色となるのだ。


ときどき強い気流が発生するのか、

朱色の陽炎が、巨大な炎のように上空に伸びてうねることがある。


そんな時には、湖の地方は荒れ模様になる。


子供の家の窓も、しばらくするとブリザードが氷粒を叩きつけるだろう。


集落に、妙にのんびりしたチャイムが鳴り響いた。


ブリザードを知らせるチャイムが鳴って、

外で立ち動いていた人々は、家に引き帰った。


チャイムのあとの、

ブリザードのくるまえの静寂が

冬の薄暮が湖の真っ平らな、

アイスなランドに映り込む。


山脈の稜線の朱色とともに。



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