荻野奏は道理あるギャグ4コマで蛮行が許される世界を構築する
荻野奏 (@kanadekun913) はシンプルで可愛らしい絵柄とシュールなギャグを特徴とするギャグ4コマの描き手だ。X およびジャンプルーキーを主な活動の場とし、最近は週に2~3回のペースで作品を投稿している。
荻野作品の面白さのキモは、不条理とともにある道理、とでも言うべきものだ。例えば冒頭で引いた『寿司の4コマ』で用いられている言葉遊びは、寿司を握らない寿司屋を正当化するだけではない。3・4コマ目の接続を担い、いわゆる結の位置を4コマ目から3コマ目に自然にズラすことにも一役買っている。強度の大きいコマが3コマ目に移ったことにより、4コマ全体の読後感は瞬間的なものから持続的なものになり、読み手の心を個々のギャグよりもむしろ作品世界に向かわせる。ギャグの面白さが、ギャグが許される世界観の奇妙さに変換される、と言ってもいいだろう。
荻野作品の理路はたびたび4コマの構造を志向する。『購入検討の4コマ』では、いわゆる結の位置はもはや2コマ目に移っており、言い換えれば「2コママンガでも通用する」。それをあえて4コママンガにしたのは、「持ち帰って」の多義性それ自体を見せたいのではなく、その多義性が通用してしまう世界のヘンテコさを見せたいがためだろう。かくして、描かれたものがなぜかそのまま通用してしまう、荻野ワールドが広がっていくのである。
そしてこの奇天烈な世界は屁理屈を理屈として強権的に成立させるようになる。『海の4コマ』は、何も知らずに読めば「そんなわけねーだろwww」という可笑しさだけで終わるが、他の荻野作品を読んだ後ではさらに「そうかも…?」といった味わいも出てくる。
構造への志向は、もちろん4コマ目にも及ぶ。『中止の4コマ』は荻野ワールドだからこそ許される4コママンガと言えるだろう。「中止」と言ったら中止なのだ。理屈が奇怪な世界を培い、その世界が(キャラを通じた)作者の蛮行を成立させる。自信の強みをそれだけで終わらせることなく、別の武器を作り出すベースにもしてしまう。作者が意識的に実践しているのか無意識なのかは分からないが、いずれにしても心惹かれるものがある。
◇
確かなギャグの腕を持ちながら、その腕を独自の世界観の構築につなげ、メチャクチャな4コマをも成り立たせてしまう荻野奏。活躍の広がりを楽しみにしたい。