【ドラマ】きみが心に棲みついた

この一週間ほど、好きなドラマが立て続けに最終回を迎えてしまい、ロスに陥っています。「きみが心に棲みついた」も、そのひとつ。原作は読んでいないため、原作と同じ部分とドラマならではの部分のちがいなどはわかりませんが、ドラマでの感想をメモしておきます📝

※以下、おおいにネタバレ!

主人公は、小川今日子27歳。女性下着メーカーに勤める、材料のスペシャリスト。なのに、彼女はいつも自分に自信がなく挙動不審で、昔から「キョドコ」という不本意なあだ名を付けられていたほど。その象徴となるのが、いわゆる中尾巻きにしたストール。どんなにおしゃれな服装をしていても、つねに手先はストールをねじねじ。。でも、そんな自分を変えたいという思いがありました。

ある夜、同僚に誘われた合コンで、漫画の編集をしている吉崎と出会います。周りに合わせてばかりで自分の意見を言えない今日子に、吉崎は遠慮なくダメ出し。今日子はたちまち吉崎に惹かれていきました。不器用ながらも、試行錯誤の末、だんだんと吉崎と打ち解けていった今日子でした。が、、、

会社で、思わぬ人と再会することになりました。それは、大学時代のサークルの先輩だった星名さん。彼こそが、今日子のねじねじストールの原因となった人なのです。生まれて初めて「キョドコ」を可愛がってくれ、慰めてくれた存在。この人のためならと、今日子は文字通りなんでもしていました。あるときは泣いていた星名に「俺のために生きてくれ」と言われ、「星名さんのために生きます」と即答したほど。でも、星名から返ってきたものと言えば、冷たい視線と暴力でした。

そんな過去を思い出し、ますます挙動不審さを増した今日子でしたが、会社での働きぶりを先輩たちはしっかりと評価してくれました。さらには、吉崎への思いも伝わり、やっとストールを巻かなくても平気になったのです。すると星名は、今度は今日子に優しくしてみたり、他の後輩に当たり散らしたり。やがて星名との関係性を訝る吉崎から、別れを告げられてしまいました。

実は今日子の挙動不審は、実の母から愛されていなかったことに根がありました。妹ばかりが可愛がられ、今日子のことははっきり「可愛くない」と言っていた母。長年の傷をこのままにしていてはいけないと、今日子はついに面と向かって言いました。「お母さんだって人間だから、好き嫌いがあるのは仕方ないと思う。だけど私も人間なの。ずっと傷ついていたの。」と。

一方、星名はというと、親のために幼い頃に顔を整形していたことと、それでも暴力が収まらなかった父親を刺したこと、その罪を母親になすりつけていたことがわかります。その母が病気のため亡くなったと知らせがあり、星名はかつての部室へ向かい、練炭自殺を図りました。そこに今日子が助けに現れますが、二人は意識を失ってしまい、、、

今日子は気づくと病院にいました。星名は病院から逃げ出し消息不明となり、そのまま一年が経ちます。すると、偶然に今日子と吉崎が再会。そして二人の結婚式には、差出人の名はないものの「Happy Wedding キョドコのクセに」とのカードを添えた花束が届けられたのでした。

と、だいぶ端折るとこういったストーリーでした。ひとつ気づいたのが星名の衣装のことです。暴れる父親に彼が包丁を突き立てたのは、真っ白なカーペットの上でした。彼が着ている服も、上から下まで白。一瞬の間ののち、真っ赤な包丁が足元に落ち、カーペットには消えることのない真っ赤な染みができるのです。これはもちろん物理的には父親の血ですが、星名自身も心に深い傷を負った場面だと思いました(それからお母さんも、絶対に)。

場面が切り替わり、練炭の部室のシーンでの衣装は、対照的に上から下まで真っ黒の服でした。彼が犯してきた数々の過ちが、彼自身を黒い人間にしてしまったかのように思えました。そして今日子に「死ぬまで慰めてやるよ。言ってほしい言葉をかけてやる。『がんばったね』『わかるよ』って。」と言うのですがこれ、、星名がかけてほしかった言葉なんですよね。カッコよくて女性にはモテる星名でしたけど、本当の恋人はいないし、友人もいない。周りの人を力でねじ伏せることしかできなかったんです。

「私は星名さんのお母さんじゃありません。ただ、助けに来たんです」と、星名を抱きしめた今日子。いま気づきましたが、ここが星名と今日子が顔を合わせた最後のシーンでした。星名が病院から逃げ出したあと、二度と姿を現さなかったのは、そのシーンを最後のものとしたかったからなのかもしれません。

このドラマで、誰かが自分を無条件に受け入れてくれることで、人は自分の足で立つことができるのだと感じました。

今日子も星名も家庭での安らぎがなく、子どものときからある種大人の振る舞いを強いられ、ありのままの自分を誰にも見せられないまま大人になってしまったように思います。今日子が惹かれた吉崎は、家族の仲が良さそうなのはもちろん、友人たちにも恵まれてきた人です。

そんな人から愛されて「うざい」くらい大切に思われたからこそ、今日子は、過去に囚われていた「キョドコ」から、今を生きる「今日子」へと変わることができました。そうして、「今日子」だったから、最後の星名との場面では彼の黒さに飲まれることなく、むしろ黒いままの彼を丸ごと抱きしめることができたのだろうと感じました。

吉崎が担当した漫画家、スズキ先生のスピーチも、「はじめは誰にも作品の良さを分かって貰えなかったが、担当の吉崎さんだけは味方をしてくれたから、ここまでくることができた」という趣旨でした。逆に言えば、誰かに味方をしてもらったことがある人は、他の誰かの味方になれるということ。ペイ・フォワードという映画がありましたが、そうやって少しずつ人と人が支えあっていけたら、と願わずにいられないドラマでした。

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