読書記録 MBA必読書50冊を1冊にまとめてみた その12

第1章 戦略
10「知識創造企業」野中郁次郎/竹内弘高
 知識社会において競争力を左右する「知識」が組織の中でどのように作られるか、その仕組みを「SECI(セキ)モデル」として理論化した本。
 SECIモデルのベースとなる考え方が、知識についての「暗黙知」と「形式知」の区別だ。暗黙知とは言葉にできない知識、形式知は言語化できる知識であり、氷山に例えると、海面に見えている形式知の下に、それよりも遥かに大きい暗黙知が沈んでいるというイメージ。
 例えば自転車に乗れない人も「サドルに跨がって、ハンドルを持って、バランスを取りながらペダルを漕いで前に進む」という形式知は分かっている。でも自転車には乗れない。形式知に表しきれない、暗黙知が備わってないとダメだ。
 あるいは、「今日は部長、機嫌悪そうだ」ということは部下は何となく分かる。でも、どこをどう見てそう判断したのか、と聞かれても上手くは答えられない、こういうのが暗黙知なのだろう。暗黙知は言葉では伝えられないから、実践の中で経験を通して体得していかなければならない。
 SECIモデルでは、この暗黙知と形式知が、
 1.共同化(Socialization)
 2.表出化(Externalization)
 3.連結化(Combination)
 4.内面化(Internalization)
の4フェーズで変換され、組織で知識が創造されるとする(SECIはこれらの頭文字をとったもの)。
 共同化では、経験の共有を通して、各々の暗黙知から新たな暗黙知を生み出す(暗黙知→暗黙知)。
 表出化では、暗黙知を言語化し、明確な概念として表現する(暗黙知→形式知)
 連結化では、具体化された概念・形式知を組み合わせて体系的な知識とする(形式知→形式知)。
 内面化では、その知識体系を個々人が体得し、組織に浸透させる(形式知→暗黙知)。
 特に最初の共同化のフェーズでは、いわゆる「ワイガヤ」で知識を共有する多様な場を設けることが必要とのこと。
 また、マネジメントのスタイルとして、ミドルアップダウン・マネジメントという型が推奨される。
 通常のマネジメントスタイルは、リーダーが引っ張っていくトップダウン型かボトムアップ型だが、前者では現場の暗黙知が軽視されがち、後者では暗黙知が個人レベルに留まり、それを吸い上げて全体に広げることが難しくなりがちだ。
 ミドルアップダウン型だと中間管理職がトップのビジョンと現場の現実の矛盾解消を通して新たな知識の創造につながるという。
 日本企業が強みを持っていたのは、このミドルアップダウン・マネジメントにより組織的に知識を創造することができたおかげだとする。
 ここでの紹介では触れられていないが、個人的には、この暗黙知という言葉は、かつてもてはやされていたニューアカデミズム(ニューアカって言われていたね)関連で聞いたことがあって、ちょっと調べると、元はハンガリーの科学哲学者のマイケル・ポランニーが提唱した概念とのこと。ニューアカのスターの一人だった栗本慎一郎氏が、マイケル・ポランニーの兄のカール・ポランニーを紹介していたので、その関連で耳にしていたのだろう。ただ、ポランニーの暗黙知の概念と経営学におけるそれとは微妙に意味合いが違うようではあるが、ここではこれ以上、深入りはしない。

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