読書記録 MBA必読書50冊を1冊にまとめてみた その26 22 「ZERO to ONE」ピーター・ティール

ピーター・ティールは、オンライン決済サービスの会社、ペイパルの創業者。
ペイパル創業メンバーは「ペイパル・マフィア」と呼ばれ、堅い結束力を誇り、シリコンバレーで大きな影響力を持っているという。テスラやスペースXで知られるイーロン・マスクもその一人だ。
ティールはそんなペイパル・マフィアの「ボス」であり、また、自由を至上の価値とするリバタリアンであり、トランプ前大統領の支持者としても知られている。
この本は、ティールが自分の経験をスタンフォード大学の学生相手に講義した内容をまとめたものだ。
世の中にの進化には「1をnにする」ものと「ゼロから1を生み出す」ものがある。前者は既存のモノをより良くするものなので、ライバルとの競争にさらされ、低収益になりがちだ。後者は誰もやっていなかったことをやるので、ライバルがおらず、市場を独占でき、高い収益を得ることができる。その代わり、過去の成功パターンは参考にならない。ティールは後者を目指すべきという。
そのためにはどうするか。必要なのは「賛成する人がほとんどいない、大切な真実」を探すことだ。「隠れた真実」を見つけ、実現すれば、市場をつくり、独占できる。これによりムダな競争をしなくて済むのだ。
こうして生まれた独占企業は「自社独自の技術」を持ち、利用者が増えるほど利便性が高まる「ネットワーク効果」を活かして「規模の経済」を追求し、その実績をベースに「強いブランド」を作り上げている。今をときめく「GAFA」などは、まさにこのパターンだろう。
また、初めから大きな市場を狙うのではなく、まずは小さく始め、その小さい市場を独占すべき、という。
更に「創業時にグチャグチャなスタートアップは、あとで直せない」という「ティールの法則」なるものを提唱している。
まずは、明確なビジョンを作り、計画的な事業内容を決めることが必要だ。ティールは、「リーン・スタートアップ」や「MVP:Minimum Viable Product」のような試行錯誤による進化を、スケールが小さいと批判する。意思に基づく大胆な計画を作って、それをビジョンを共有する気の合う仲間と始めるべき、という。
こうしたティールの主張の背後には「インテリジェント・デザイン」という考え方があるという。インテリジェント・デザインとは、ダーウィンの進化論を否定するもので、生物は偶発的な突然変異と自然淘汰の結果として進化したのではなく、高度に知的な存在によってデザインされ、創造されたという説(というか宗教的な主張)だ。
ティールは、スタートアップにおいてはダーウィンの進化論ではなく、インテリジェント・デザインこそが最適だ、とする。新しいものを生み出すには、最初に偉大なる意思が必要で、それを共有できる一握りの仲間たちだけで事業を進めるべき、というのはエリート主義というか選民思想的な要素が感じられ、それがティールのやり方の特徴なのだろう。
本書(MBA必読書50冊を1冊にまとめてみた)では、色々な経営理論の本、提唱者が取り上げられているが、ティールはその中でもとりわけ異色な印象を与える存在だ。注目すべき人物であるのは確かだが、やや極端な、一種の「特殊解」ではないのかと思わせられる。少なくともこれだけを信じて進むのは何か危うい気がする。


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