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俵万智さんの「愛の不時着」ノート

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はにかみと思いやりのずらし話法〜リ・ジョンヒョクの言葉 「愛の不時着」ノート⑥

はにかみと思いやりのずらし話法〜リ・ジョンヒョクの言葉 「愛の不時着」ノート⑥

 「愛の不時着」全編を通して、ある意味もっとも共感したというか感情移入できたセリフは、第四話の村のお姉さま(と言っておこう。私より年下だと思うけど)の言葉だ。ユン・セリと市場ではぐれてしまったことを、リ・ジョンヒョクに告げるシーン。顔色を変えて走り出す彼の背中を見ながら、彼女たちは話す。
 「今彼は、サムスクを探すために走り出したのよね」
「他の女を心配する人を見て、どうして私がこんなにドキドキす

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ジキルとハイドとリ・ジョンヒョク 「愛の不時着」ノート⑦

ジキルとハイドとリ・ジョンヒョク 「愛の不時着」ノート⑦

 主演がヒョンビンということで興味を持ち、ドラマ「ジキルとハイドに恋した私」を見た。製作は2015年なので、「愛の不時着」の約五年前である(以下、ネタバレあります)。

 大企業ワンダーランド社の跡取り息子であるソジンは、幼いころの誘拐事件にまつわるトラウマから、解離性同一性障害(いわゆる多重人格)を発症する。もう一つの人格であるロビンは、ソジンとは正反対の性格という設定だ。

 親友を助けられな

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続・二人はいつ結ばれたのか問題 「愛の不時着」ノート⑤

続・二人はいつ結ばれたのか問題 「愛の不時着」ノート⑤

 前回の「二人はいつ結ばれたのか問題」について、さらにリサーチしてみた。私の周囲の反応がさまざまに興味深かったので、具体的に記しておこうと思う。

 一人目は、元新聞記者の韓流ラブの友人だ。彼女はヒョンビンが兵役に行く直前のファンイベントにも参加した。席が遠めだったので、「高校野球の取材かっていうくらいの仕事用のカメラと望遠レンズを持っていったんだけど、他の人のほうがよっぽどプロ仕様なカメラを構え

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二人はいつ結ばれたのか問題 「愛の不時着」ノート④

二人はいつ結ばれたのか問題 「愛の不時着」ノート④

 最終回、スイスでの二人の逢瀬の様子は、それはもう、うっとりするしかない。宿泊しているコテージの窓辺には、ツーショットの写真が複数飾られていたりして、ここが定宿なのかなと思われる(いや、もしかしてセリさん、買ってしまいました?)。ほんとうに七夕の織姫と彦星のように、年に一度、二週間という時間を二人は手に入れたのだ。そうか、そんな手があったか。「スイスでの出会い」と「ピアノ」という伏線が、みごとに回

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甘い焼酎と苦いソーヴィニヨンブラン 「愛の不時着」ノート ③

甘い焼酎と苦いソーヴィニヨンブラン 「愛の不時着」ノート ③

 第二話の冒頭、軍人のリ・ジョンヒョクが、かつてはピアノを奏でていた美しい指で、手作りの麺をこしらえる場面がある。行きがかり上かくまってしまった、まだ何者ともわからぬユン・セリのために。

 ドラマには、数々の美味しそうなものが出てくるが、一つだけ食べられるとしたら、私はあの麺を望むなあ。丁寧に焼いて細く切った錦糸卵までのっていたっけ。他にも、貴重な肉を炭火で焼いてくれたり、豆を炒るところから(!

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もう一つの太陽と月 「愛の不時着」ノート ②

もう一つの太陽と月 「愛の不時着」ノート ②

 物語の冒頭で、ユン・セリは、財閥の後継者争いに勝利する。長兄のユン・セジュンと次兄のユン・セヒョンを差し置いてのことだった。この二人の兄は、実にわかりやすく権力志向で、なんとか父親の機嫌をとり、自分こそが後継者にふさわしいとアピールしまくる。同時に、互いの失敗をあげつらっては、兄弟であろうがライバルとして蹴落とそうとするところも、そっくりだ。

 それぞれの妻も、夫の出世を強く望んでいる。自分の

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太陽と月のカップル「愛の不時着」ノート ①

太陽と月のカップル「愛の不時着」ノート ①

 写真は「愛の不時着」のサントラ盤のジャケットだ。そもそもは、左の二人、ソ・ダンとリ・ジョンヒョクが婚約していて、右の二人、ユン・セリとク・スンジュンも婚約寸前だった。それが物語の過程で、真ん中の二人と左右の二人が、それぞれ愛し合うようになる。つまり、二組のカップルが、たすき掛けに相手をチェンジする。

 主役の二人が惹かれあうのは当然の流れとして、それぞれの元カレと元カノがカップルになるというの

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「愛の不時着」ノートはじめます

「愛の不時着」ノートはじめます

はじめに

「愛の不時着」が素晴らしすぎて、好きすぎて、書きはじめることにしたnoteです。思いつくままですが、書くことで、なんというか気持ちの整理をしておきたいと思いました。言葉にしておかないと、心の嵐がおさまらない。コロナ禍のなか、友だちと存分に語りあえないことも要因かもしれません。

 今ごろ? 今さら! って思う人もいらっしゃるかな。でもね、これは古典になるドラマですから。「万葉集」を読ん

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