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『ジャンダルム』(3)山で出会う動物【ノンフィクション小説】

私は徳沢から横尾へ歩いていた。
途中、梓川の岸辺の草むらに何かいるのに気づいた。
タヌキほどの大きさだ。
タヌキではなさそうだ。
私はカメラを構えて、その動物が出てくるのを待った。
もしかしたら、オコジョとかいう奴か?などと思った。
その動物は出てきた。
私は写真を撮った。
オコジョか?

私には知識がないのでわからなかった。
タヌキでもキツネでもないのはわかるが、それがなんという動物なのかわからなかった。
そういえば、今回はまだ猿にほとんど会わない。以前上高地に来たときには、猿がすぐそばにいるのが当たり前だった。天候の影響だろうか?
動物といえば恐ろしいのはクマである。
下山予定の岳沢小屋にはクマが出たためテント場使用の中止の情報があった。私は本当にそこに下山してもいいのだろうか、などと道々考えていた。もしかしたら、ジャンダルムよりクマのほうが怖いのではないか?いや、遭遇した場合明らかにクマのほうが怖い。
だが、それはジャンダルムのあとの話だ。
私はジャンダルムで死ぬかもしれない。
いや、必ず生きて帰ってこよう。
生きて、晴れるであろう最終日を、奥穂高から吊り尾根を通って前穂高に登り、重太郎新道を岳沢に下ろう。そこでクマに会うかは運だ。私の努力ではどうにもならない。しかし、ジャンダルム攻略は天気と自分次第だ。
翌日は雨だ。
その次の日、穂高岳山荘からジャンダルムへ往復する。
そして、さらに次の日、吊り尾根を通って、前穂高に登り、重太郎新道を岳沢に下り、上高地へ降りる。
無事に帰ることだけを考えればいい。
ジャンダルム、険しい岩場では三点支持が絶対に重要だと言われる。それを忘れずに行こう。
下山時のクマ遭遇など気にせずに、目の前の岩だけに集中しよう。
私は家で見たジャンダルムについての動画を何度も思い出して、「馬の背」のわずかな足の置き場などを繰り返し考えていた。
そして、私は横尾に着いた。

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