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【冒険ファンタジー長編小説】『地下世界シャンバラ』9

四、アガド軍入城

 ルミカ王女が出発して三日が経った。
 ラパタ国では、国王がルミカを心配していた。
 が、その心配どころではなくなった。ラパタ国の東の山の上に、敵国軍が峠を越えて攻め込んで来たことを伝える狼煙のろしが上がったのだ。ラパタ国王は国民を城内に入れ門を閉ざした。
 攻めて来たのは大国、マール国のアガド将軍の軍千騎だった。
 ラパタ国はマール国に毎年貢物をしていた。だが、属国ではなくあくまで独立国であった。したがって、突然のアガド軍の登場は侵略行為に他ならなかった。
 鎧で武装したアガド軍はラパタ国の城壁を包囲した。
 東の城門の前でアガドは大音声だいおんじょうで叫んだ。
「ラパタ国王よ、門を開け。戦えば必ず我々が勝つ」
その言葉を兵士から伝え聞いたラパタ国王は言った。
「たった千騎で我が国に勝てると思っているのか?いかにマール国が大国とはいえ、地の利というものがある。この地で利があるのはわしらのほうだ」
 そう言っていたところにまた情報が来た。ラパタ国の兵士たちが城門を開いたというのだ。ラパタ国王は城のバルコニーへ出て城門のほうを見下ろした。
「なぜだ?なぜ、城門が開くのだ。あれは内側からでしか開かぬようにできているはずだ。・・・まさか、内通者がいたか?」
 アガド軍は城内に入って来た。ラパタ国軍は戦いもせず、アガド軍を迎え入れた。出迎えに出たのはラパタ国の背の低い頬肉の垂れた初老のゲンク大臣だった。
「アガド将軍、お待ちいたしておりました」
アガドは馬上にいたまま大臣に声を掛けた。
「ご苦労。王の身柄は確保してあるか?」
「はい、ただいま、王家の者が玉座の間で捕縛されているところでございます。どうぞ、玉座の間へ」
大臣がそう言うと、アガドは馬から降りて部下を連れて城内に入った。
 アガドが玉座の間に行くと、ラパタ国王、王妃、コタリ王子が縛られていた。
 頬肉の垂れた大臣は言った。
「残念でしたなぁ、陛下。いや、陛下ではない、元国王よ」
ラパタ国王は縛られて床に座ったまま大臣を歯ぎしりして睨んだ。
「この裏切り者が」
アガド将軍はラパタ国王の前を素通りし、玉座に着いた。そして言った。
「ラパタ国王よ。この地は今日からマール国の一部だ。そして、シャンバラへの前線基地にする。ありがたく思え」
ラパタ国王は言った。
「バカな。アガドよ、おまえは正気か?我が忠誠心厚き国民が黙ってはおらぬぞ」
アガドは言った。
「ふん、弱小国の国民など、束になっても我が軍には勝てぬわ。その証拠にゲンク大臣の裏切りにも気づかなかったではないか。お人好しの国王様よ」
縛られたコタリ王子が言った。
「アガド、何が狙いだ?シャンバラへの前線基地とはどういうことだ?」
アガドは玉座で反り返って言った。
「なんだ、小僧。生意気な。王族というのは、生まれながらに高貴な立場にある。自分の弱さも知らずに気位ばかりが高くていかん。まあいい、小僧、シャンバラには世界を支配するための秘宝があるそうだな。マール国王陛下がそれをご所望だ。マール国が世界の覇権を握るのだ」
コタリ王子は言った。
「本気でそんな物があると信じているのか?」
アガドは言った。
「地下世界があるとしたら、それくらいの不思議な物があってもおかしくはあるまい?仮になくてもなにしろ理想の仏国土だ、わが軍を慰めてくれる財宝くらいはあるだろう」
ラパタ国王は言った。
「おまえの私欲か?アガド」
アガドは言った。
「私欲・・・。俺は軍人だ。マール国王に忠誠を誓っているのだ。陛下からは秘宝以外の財宝は我が軍のものにしても良いと仰せつかっている。陛下が欲しいのは秘宝のみだ」
ラパタ国王は言った。
「我々を殺すのはいい。だが、国民は殺すな」
アガドは立ち上がりツカツカとラパタ国王に近づいて刀を抜いた。その切っ先を国王の喉に当てて言った。
「なにを勘違いしている?俺は軍人だ。殺人鬼ではない。おまえたちを殺すことはしない。利用できるうちはな」
アガドは刀を鞘に収めた。そして、兵士たちに言った。
「こやつらを牢に閉じ込めておけ。城壁にマール国の国旗を掲げよ!」
ラパタ国の城壁にたくさんのマール国の赤い国旗が掲げられ、はためいた。



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