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まこもと水鳥の物語ー「マコモ菌」の発見➖第6話 最終回「水鳥とまこもが教えてくれた秘められた力」

それからというもの、
ひろしは、その好奇心をもって、龍の正体を見極めてやろうと観察しはじめたのでした。

よく観察してみると、
龍のような物体は、5、6メートルはあり、
そして、巨大なアワビの殻のようなものが鎖状を成しており、
それがキラキラと光り輝きながら、天高く舞い上がっていくのです。
その姿は、星屑が天から降ってくるのとは逆に、
まるで天に向かって星屑が降り注いでいるように見えました。

ひろしは、いつのまにか、これを「アワビの化け物」と呼ぶようになりました。

さらに観察していると、他にも不思議なことに気がつきました。
「アワビの化け物」が、「まずん」から飛び立つ前、
水面は荒れ狂い、大波が生じるのですが、
その荒れ狂う直前、水鳥たちはみんな姿を消しているのです。
そして、「アワビの化け物」が飛び立った後に、ゆっくり戻ってくるのです。

「さては、水鳥たちもひろしと同じ『アワビの化け物』が見えていて、
前兆を察知するなり、ちゃっかりと逃げ出しているのだな」と、ひろしは理解しました。
水鳥たちのそんな不思議な知恵を思うと、
ひろしはいっそう水鳥たちが愛おしくなるのでした。

その後も「アワビの化け物」は、ひろしの前に度々現れました。
そして、初めてそれを見た時から、かれこれ一年が経とうとしていました。

そんな、ある日のことです。
明け方「まずん」にいたひろしは、またもあの強い光に包まれました。
そうして、いつものように「アワビの化け物」が現れて、
東の空に消えていくのを見つめていまいた。

しかし、その直後、静まり返った水面に、
東の空からパーっと太陽の光が差し込んできて、
「まずん」一面にキラキラと真菰を照らし出したのです。

この瞬間、ひろしは、真菰と太陽の光との深い関係を、直感的に理解したのでした。
真菰に秘められた力は、この関係性の中にあると思ったのです。

同時に「アワビの化け物」の正体が何かも閃きました。
「そうだ、それこそが、真菰なのだ」
「『アワビの化け物』は、真菰の秘められた本当の姿なのだ」
ひろしは、そう確信しました。

そして水鳥たちが、太陽に照らされた真菰を噛みちぎって食べて、
それをまた口から吐き出して傷口にあてている姿を思い浮かべていました。

大地の力を帯びて水辺に生える真菰は、
天の力である太陽に照らされ、その力強い命を養われる。
そして、水鳥たちに食いちぎられた時に、いったん真菰の命は途絶えるが、
水鳥たちにクチャクチャと噛み砕かれ、食べられ、飲み込まれて混ざり合う中で、
真菰は蘇生し、水鳥の中で不思議な力を発揮する。
食べられてはじめて進化を遂げる―。

そんな大自然の摂理と、植物と動物が共生し調和する姿を、
ひろしは確かにずっと観察してきました。
自然の一部であるひろしたち人間は、この調和の中で生かされている。
そして今、このたった一つの植物である真菰の中に、
生きとし生けるものを生かそうとする天地のあらゆる力を見出して、
そのかけらを直感したのでした。

「アワビの化け物」が放つ輝きは、真菰の輝きそのものなのだ。
あれは真菰の本来の姿だったのだ。
真菰はまさに聖なる植物なのだ。

ひろしはそう思って、
東の空を、いつまでも見つめているのでした。

この日以来、ひろしは「アワビの化け物」を、全く見なくなりました。
不意義な現象は、ひろしにこのことを気づかせるためだったのでしょうか。

**


さて、ひろしはこの時の直感により、のちに、
微生物である「マコモ菌」を発見したのです。

「マコモ菌」は、何百度に熱しても死なない熱に強い菌でした。
そのような菌は今まで見たことも聞いたこともありません。
生命力の強い「マコモ菌」の秘めた力は、
体を浄化し調和する働きだったので、
多くの人々の健康維持に役立ちました。

植物の真菰は動物に食べられ取り込まれることで、一度死にます。
しかし、その死んだ真菰が土壌となって、
真菰の中にはもともと生育していなかった、
新しい微生物、「マコモ菌」が誕生します。

「マコモ菌」は自然界には存在しない菌でした。
真菰は動物に食べられた後、「マコモ菌」として蘇生したのです。

「天(太陽の光と熱)と地(水と土と空気)と植物と動物”が、
互いに引き合い、調和した時にのみ生まれる力が真菰の本性である」という、
ひろしの直感そのものでした。

ひろしはさらに、太陽光を利用した独自の方法で、
「マコモ菌」を発生させる方法を生み出すことになります。

野山を駆け回っていた自然児のひろしが、
大自然の中から発見した真理の結晶がここにありました。

それからも、ひろしは真菰を通して、この世の真理を発見していくのですが、
そのおはなしは、また今度……。

**

おやおや?
ひろしは、また小屋で寝泊まりしているようです。今はすっかり眠りこけています。
「マコモ粉」を求めに来る人が増えて、大忙しで疲れているのでしょう。

寝ているひろしの頭を、「クウ、クウ、ククウ」と、一羽の鴨がこづいています。
まあまあ、よく見ると、他にも雁や白鳥やカモメやオシドリたちが集まって、
ひろしの周りで眠っています。

水鳥たちはひろしを大好きになり、
夜はこうして、小屋やその周りで一緒に過ごすようになりました。

水鳥たちは毎夜、一羽ずつ順繰りに、「まずん」で寝ずの番をしています。
「まずん」で何か起きたら、ひろしをこづいて、水鳥が知らせにくるのです。
「まずん」の守り人であるひろしを、水鳥たちは、そうして手伝っているのでした。

水鳥の番人にこづかれたひろしは、眠そうに目をこすりながら、
番人の頭をそっと撫で、ゆっくりと起き上がって、
「まずん」のほうへと、歩いていきました。

おしまい

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