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”そういう音楽”は要らないの。”そうじゃない音楽”だけがおれたちを勇気づける。

少なくとも911までのNYCはルー・リードとローリー・アンダーソンとジム・ジャームッシュとついでに言えばウディ・アレンが代表する街だった。だからこそこんな素敵にいかれたレコード&CDショップがイーストヴィレッジに生まれただろう。



1995年イーストヴィレッジのTower Recordsの対面に、音楽マニアを熱狂させるインディペンデントなレコード&CDショップが誕生した。メタル以外のあらゆるジャンルのマイナーで興味深い、あるいはエキサイティングな、しかも半数近くはおよそよそでは扱わないような音源を販売していた。スタッフは数人の(それぞれ好きな音楽ジャンルの異なった)とてつもいない音楽マニア。かれらが音源を仕入れ、値段をつけ、短く熱烈な紹介文を書いて商品に添えた。この店 Other Music はメタル以外のあらゆる種類の音楽ファンを熱狂させた。客たちはスタッフと挨拶をし世間話を交わし、そして買う音源の相談をした。そしてまたこのショップは大手メディアに乗らないミュージシャンたちを支援した。ともすればストアライヴでとんでもなくアナーキーなミュージシャンが演奏した。こうしてOther Music はまたたくまにマンハッタンになくてはならないショップになっていった。それはほとんどあらゆる音楽マニアたちみんなの家だった。



ところがインターネットが広がってゆくととものに、音楽は定額配信かあるいはただで聴くものという価値観を持つ新しい世代が台頭した。2006年にアメリカの最大手だったTower Records も破産しアメリカ全店舗がいっせいに閉店。その後アメリカではわずかながらCDを買う人もせいぜい(日本で言えば西友みたいな)Walmart で・・・というような時代になり果てた。https://www.walmart.com/browse/music/cd/4104/YnJhbmQ6Q0Qie そしてそんな時代に攻めたてられて、音楽マニアの希望の灯、Other Music もまた2012年、閉店してしまった。



店のファンたちは嘆き悲しみ、閉店の話題はNew York Times の記事にさえなった。最近ドキュメンタリー映画"Other Music" が作られた。これを見ると音楽マニアは必ずやわくわくし、スタッフに共感し、そしてあらかじめ知っていた結末に涙するでしょう。映画本編にはヘヴィーユーザーたちのひとりとしてサイコーに自由な音楽を作る小山田圭吾さんも登場します。


こんなアーカイヴも残されています。

ちょっと余談をはさもう。きのうぼくはいつもの女友達とこの映画を見て別れた後、高田馬場の路上でバーの客引きしている浅黒い肌の男と立ち話をした。聞けばかれはナイジェリア人。
かれは言った、「ナイジェリア、知ってる?」
ぼくは言った、「King Sunny Ade の国だよね。」
するとかれはよろこんじゃって、「すごいね♪」と驚いた。
ぼくは言った、「むかし日本へ来てくれたんだよ、おれ、ライブ聴きに行ったもん。アデは黒いテレキャスをちゃかちゃか弾いてたよ。」
ナイジェリアはポップミュージックが盛んな国で西側諸国でもそれなりに知られている。理由はおそらくナイジェリア国民ひとりあたりのGDPこそ2000USD(30万円足らず)とかなり低いものの、それでもナイジェリアは産油国で天然資源も豊富、しかもその低いGDPであってなおアフリカではGDP第一位であることと関係深いだろう。
ぼくは訊いた、「あのさ、あなたの好きなミュージシャンを3人教えて。」するとかれはぼくのノートに書いてくれた、Davido。Rema。Kiss Daniel。そしてかれは言った、「みんなAfrobeatsのシンガーなんだ。」
ぼくははじめて知った、Afrobeats なる言葉があることを。かれは職務上ぼくをバーへ誘ったけれど、ぼくは笑って断り、かれと軽くハグして別れた。



ぼくは家へ帰ってYOUTUBE で検索して聴いてみた。こんな音楽だった。



もしもぼくがナイジェリア人だったら、これらの音楽に関心を持ったかどうかはわからない。けれどもぼくは日本人ゆえ、好奇心が沸き立つ。そしてまたAfrobeats なるジャンルにも関心が向く。



いいえ、それ以上にぼくはおもった、たしかに多少なりとも音楽は人と人をつなぐ。また、便利な時代になったものだ。サブスクなら月額1000円で膨大な音楽を聴ける。YOUTUBE にいたってはタダで。しかし他方でこの便利さがミュージシャンたちが生きにくい時代を生み出してもいて。しかもともすればぼくらを孤独にする。だって、ミュージシャンでさえも部屋でデスクトップに向かって音楽を作り、データを電送し合って作品を仕上げるような時代だ。リスナーとてもちろん部屋でひとりで(あるいは愛する人とふたりで)ネットからダウンロードして音楽を聴くことは楽しい。けれどもそれだけではあまりに寂しい。ミュージシャンもリスナーもともに孤独でたがいに誰ひとり仲間に出会うことがないなんて哀しすぎる。しかももしもリスナーが好奇心を発動させなかったならば、耳に入ってくるのはともすれば慣用句と媚びにまみれ、われわれを無気力で受動的にしてしまう商売音楽だけなのだ。ぼくらはもう少しリアルな音楽を探したほうがいい。そしてもっと誰かと繋がることを考えた方がいい。せめてマイナーですばらしい音楽を発見したならば誰かにその魅力を伝えよう、音楽には人を幸福にして人と人を繋ぎ、勇気づける、そんなポジティヴな力があるのだから。これが映画Other Music のメッセージである。ぼくは共感を込めておもう、”どこにでもある商売音楽”は要らないの。”ああいうのじゃない音楽”だけがおれたちを勇気づかせる。


Eat for health, performance and esthetic
http://tabelog.com/rvwr/000436613/

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