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後期昭和、フィーリーサウンズ、歌謡曲、AOR、ポストパンクの不義密通。


BOYS TOWN CAFE 東京都品川区西五反田5丁目1-14 ベルシエーロ不動前B1F 03-6417-0246

この夜ぼくといつもの女友達ははじめてこの店に入って、かつてAOR(Adult Oriented Rock)と呼ばれたお洒落音楽に迎えられた。Boz Scaggsの “Silk Degrees”や、Bobby Caldwell 、Nick Decaro、George Bensonの“Breezin´”、J.D. Souther、そしてピンクフラミンゴのジャケットで有名なCristofer Cross・・・。いいえ、ほんとうはそこまでベタな選曲ではなくてこちらのハウスDJさんならではの洒落たひねりがあるのだけれど、しかしいかんせんぼくの方にAORの教養がない。ぼくはツバキハウス育ちでポストパンク~ニューウェイヴ派だったからね。それでも同じ時代を過ごしているからほどほどに覚えがあって懐かしいっちゃ懐かしい。


店内はポップでカラフルな空間、お洒落なデザイナーの家に招待されたような気分です。ぼくはI.W.Herperを飲み、女友達はなにを飲んでたっけ。ぼくらは真っ赤なカップルソファに並んで座って、JBLとタンノイから流れてくる音楽に身をまかせています。


ぼくは彼女にしゃべる。「AORって1976年THE EAGLES がHotel California でカリフォルニア幻想がすっかり終わってしまったことをはかなむ陰気なレクイエムを捧げて、その後の流行なわけ。和音の使い方もちょっとお洒落になって、バックに弦楽器を入れたりする。ロックとオーケストラって話もなかなかおもしろいものがあって。もともとロックってヴォーカルがいてギターとベースとドラムスでやる音楽なんだけど、それでもBeatlesだってGeorge Martin が時に応じて管楽器を入れたり、弦楽四重奏をつけてみたり、サージャントペッパーみたいなカラフルなサウンドを仕上げたりしていたでしょ。マニアな話題としては、The Moody Bluesは盛大にオーケストラを導入した。そしてAORはあからさまにロックをオーケストラがサポートするジャンルなわけ。そこを軟弱に感じるかお洒落に感じるか、それは人それぞれというもの。


ちょっとTHE TREE DEGREES のMidnight Train (1975年)をリクエストしちゃおかな。あの頃は日本のテレビでも“SOUL TRAIN“(アメリカでは1971年~2006年まで)なんて番組を放映していて、日本ではじゅんとネネ、おっとまちがえた、JUN とROPEが提供していたの。SOUL TRAINはもっぱらブラック・ミュージックの番組で、この時期フィラデルフィア・ソウルって呼ばれるオーケストラを従えたソウルミュージックが流行ってたの。この曲“Midnight Train“


実は作詞が松本隆、作曲が細野晴臣、編曲が矢野誠。演奏が細野さん率いるティン・パン・アレイ、さらにはオーケストラが演奏を華やかに彩っているでしょ。きっと細野さんはかれが率いるティン・パン・アレイで、歌謡界をのっとってかっこよくしてやろうっていう野心を持ってたんじゃないかしら。


お、DJさん、洒落をわかる人だねぇ、浅野ゆう子「セクシーバスストップ」(1976年)ですよ。

これがザ・芸能界の筒美京平作編曲でね、おもしろいよね、メロディは日本人の大好きなメジャーな5音階で、それでいてソウルっぽいダンスビートをバンドが作り出し、しかもバックにはコーラス隊とオーケストラがサポートしてる。
そもそも歌謡曲はたとえばダン池田さんそのほか指揮者がいてオーケストラが伴奏をつけてたもの。構造は同じでしょ。そんなわけでこの時期アメリカのソウルミュージックと日本の歌謡曲が出会うわけ。筒美京平さんがまた楽譜書きながら楽しんでるよね。Kitsch趣味の近田春夫さんが筒美京平讃美をするでわけですよ。あの時期は岩崎宏美の「二重唱」とか「ロマンス」も楽しかったな。


そういう意味では、AORってロックの系譜のみならず、ソウルミュージックの系譜も引いていて、しかも歌謡曲もニューミュージックもこの流れに乗った。お、夏目雅子の「Oh! クッキーフェイス」(1977年)

 あっというまに歌謡曲がAOR化していった時代だった。おもえば若かった頃の坂本龍一さんがレコード大賞の編曲賞をとったのは、サーカスの「ミスター・サマータイム」(1978年)だったよ。坂本さんって器用すぎてちょっと笑っちゃう。


お、(ぼくは行かなかったけれど、たぶん)伝説の六本木のディスコXanadu系の選曲になってきたね。Chic~Chaka Khanみたいな流れ。
「おれね、ニューウェイヴに首まで浸かっていた癖に、なぜかこの流れは好きだった。あの頃 chic のギタリストNile Rodgersがまたひっぱりだこだったんだよ。
お、来た来た来たDaiana Ross のUpside Downが。
これですよ、このギター。



もっともね、あまりに Nile Rodgersが流行最前線の人になっちゃったものだから、David Bowie までがアメリカで売りたいもんだからNile Rodgersのギター従えて、Let´s Dance なんか歌っちゃって、おれはおもったよ、ボウイは終わったなって。」
女友達がこっそりリクエストすると、Dona Summerの I Feel Love が流れてきます。いいねぇ、軽薄なたのしさ。彼女は澄ました顔してマリブのソーダ割りを飲んでいます。



おもえば、THE TREE DEGREESは、My Simple Heartでイタリア人のGiorgio Moroderに発注していて、エレクトロニック・ディスコの流れにも乗ってるわけ。また、Giorgio Moroder はBlondieやJapan のLife in Tokyoまで手掛けるわけ。あ、さすがオウナーDJさん、わかってらっしゃる、Japan のLife in Tokyoをかけてくださって♡


Giorgio Moroder とその時代。もっともDavid Sylvian の日本観はシニカルで、東京はビルと家ばっかで東京暮らしはセンチメンタルで残酷だ、とかはかなんでるの。Life in Tokyo 。なるほどね。そうかもね。I.W.Herper のロック、おかわりしちゃお。



そしていつしかぼくの耳に(かかってもいないのに)矢島美容室の「ニホンノミカタ-ネバダカラキマシタ-」が聴こえてくるのだった。



Eat for health, performance and esthetic
http://tabelog.com/rvwr/000436613/

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