「科学的管理法」の見直し
「科学的管理法」の読み方
ダイアモンド社から出ている、テイラーの「新訳:科学的管理法:有賀祐子訳」の読み方について、少し書いておきたい。この本は、そのままで現在に通用し内面も多いが、考え方は現在にも通じる。
特に、学生時代に真面目に学んだ新入社員に、学問知識を仕事上で活かすためのヒントになるし、管理職になった人は、管理職のあり方について、考える切り口になると思う。
なお、旧訳は手に入りにくいことを考慮して、新訳で議論するが、適宜旧訳も参照する。
まず、従来のテイラー観は
あるいは、これをまとめた
「雄牛のような男シュミット」
と言うような表現が一人歩きしている。しかし、前書きにもあるように
と人間観察を重視している。そして、科学的な方法で、労働者と協同して生産性向上を図っている。
現在では、生産性向上に関しては、「トヨタ生産システム」等の日本的手法を、有効とする向きが多い。しかし、この主体は現場に依存する部分が大きく、ティラーの言う
の管理に傾くことが多い。
しかし、確りした管理者や技術者の責任を明確にする
は、もう一度高学歴なデスクワーク社員の存在価値を、明確にするためにも、見直すべきだと思う。
主要部の抜き出し
大切と思うところを、抜出してみた。まず序章の言葉は、科学的管理が、ある程度いきわたった現在でも、そのまま通用しそうである。
序章 p4から
序章 p5
次に第1章の内容だが、もう一度基本に立ち返って、管理職と経営者のあるべき姿を、考えるには良い機会である。
第1章p10
このことを忘れて、安い労働力に飛びつく経営者がいかに多いか?
第1章 p29~p30
これも現在の「現場任せ」の空気に猛省を迫っている。
第2章からは、科学的管理法の具体論がある。現在の目で見れば、稚拙な面もあるが、知識の活用と言う面では、重要な内容を含んでいる。
まず、p44の新しいマネジャーの任務は、もう一度確認して欲しい。
一人ひとり、一つひとつの作業について、従来の経験則に代わる科学的手法を設ける。
働き手がみずから作業を選んでその手法を身につけるのではなく、マネージャーが科学的な観点から人材の採用、訓練、指導などを行う。
部下たちと力を合わせて、新たに開発した科学的手法の原則を、現場の作業に確実に反映させる。
マネージャーと最前線の働き手が、仕事と責任をほぼ均等に分け合う。かっては実務のほとんどと責任の多くを最前線の働き手に委ねていたが、こらからはマネージャーに適した仕事はすべてマネージャーが引き受ける。
第2章3「銑鉄の運搬作業における取り組み」から
この節は、単純作業でも科学的な力を発揮することを示している。
まずp52
これは、人間観察を大切にする、テイラーの手法の特徴を示している。
次に、p59~p65の体験は、自分で読んで欲しい。テイラーの工員との過酷な闘争を理解せずに、テイラーの言動を批判してはいけない。当時の稚拙な管理下では、工員の怠業を引き起こすことは多くあった。現在の自分の認識で、他の人々を批判する態度は、慎まなければならない。
さらに、 p65~p70のテイラーの経験談は、科学的な現場への対応法として、現在にも通じるものである。工学部の学生でも、このような知識と言うか智慧をきちんと身に付けているのは、少ないと思う。
まずp65
このように、根本問題を認識することがまず重要である。そして、p66~p67の
確りした観察を行った。これを読めば、現場を見るということの一端が、わかると思う。さて、このデータから一般法則を読み取ろうとして、テイラーは失敗している。この部分は、物理学知識の現実への適用と言うことで、興味深い問題である。まずテイラーの目標は間違っていた、p67
これは、物理学で言う『仕事』の概念に振り回された結果である。物理学の言う仕事は、力の向きと、物の動きの向きが一致しないと仕事にならない。しかし人間の体は、そのようなものではない。ただこれだけで終わらないのがテイラーの凄さである。p68とp69~p70の記述を続けて見て欲しい。
このようにして、92ポンド(41.7kg)の銑鉄を運ぶ場合には、実際に物を持つ時間は42%で、残りは重荷から開放しないといけないことを発見した。こうして合理的な、作業量を見出して、従来の12.5トン/一日から、47トン/一日の上げることに成功した。
この部分の考え方は、現在でも理論知識の実用化に応用できると思う。なおテイラーは、人間性にも十分配慮していた証拠として以下の部分も上げておく。p67
他の事例
残りの部分の事例は、それぞれ教訓があるが、時間がないなら読み飛ばしてもよい。以下で各節について味うべき点を述べたい。
5.ショベルすくい作業の研究
シャベルすくい作業は、銑鉄運びと同様に肉体労働の要素が大きい。従って、最適量を見出す過程は、重なっている。しかし、
等現在では常識となっている、工場の間接・管理業務について、1900年ごろの時代では、新規提案であったことは、理解して欲しい。
6.レンガ積みにおける検証
ギルブレスのレンガ積み研究は、それ自体として独自で学ぶ価値がある。しかし、この本では、不要動作の除去に関する、研究方法を示していると理解すべきであろう。
7.ベアリング用ボールの検品に対する考察
この節では、個人能力差を科学的に判定し、作業者を選別することの重要性を示している。なお、ここでも休息の設定など、人間的な配慮をきちんと行っていることは、理解すべきであろう。なお、現在の工業化では、このような業務はできるだけ、機械化し個人の能力に依存する部分を押さえる方向に向かっていることも、付記しておく。
8.高度な金属切削業務における探求
この部分は、テイラーがもっとも力を入れ、26年研究した部分である。この改善に関しては、現在の目で見れば、大したことではないと思う人も多いであろう。しかし、学校の理論を、実務で活かすためには、このような苦労が必要と言う話しは、現在に通じるものがある。
特にp125~p131の、12の独立変数の方程式を解こうとして、全国の数学者に問い合わせても、答えが得られず、自分たちで計算尺にまとめた話は、学問知識と実用のギャップの越え方の参考になる。ただし現在なら、パソコン上で強引に計算してしまうだろう。
9.科学的管理法の実践
この部分は、前の部分をきちんと読み込んだ人が、読むべきであろう。これだけ読んで、直ぐ実行に移すと失敗する。ただし、p115の
と、p157~p158の「消費者の存在」に関しては、現在の経営者が確り理解すべきであろう。
特に科学的管理法は、現場の改善に依存する「自主性とインセンティブ」(旧訳では「精進と奨励」)管理に対する概念で、管理職の科学的知識での改革を要求していることを、もう一度確り理解して欲しい。
|新訳|科学的管理法
著者:フレデリック W.テイラー
販売元:ダイヤモンド社
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付録
さて、テイラーの科学的管理法に対しては、その後の追従研究者のうち
ホーソン実験で明確になった
人間的要素重視
が、反論として取り上げられることが多い。
ホーソン実験 - Wikipedia
しかし、この問題はすでにテイラーが
感情などの要素の影響は認め
それを最小化した理想化
で、成果を出したことを考慮しないといけない。逆に言えば
ホーソン実験は
初期の実験目的の環境設定失敗
から生まれた成果
である。これを考えると
「雄牛のような男」
という表現には、大きな意味がある。
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