太ももサティスファクション☆ナイト NEVER DIE のこと(前半)
私は漫画が好き。
この世のあらゆる芸術や娯楽の中で一番漫画が好き。
漫画は色んなことを教えてくれる。
2009年3月、米国テキサス州オースティンで開催されたSXSW2009でのライブをもって、ビキニトロンボーンガールズバンド「太ももサティスファクション」は解散した。
私の遅れてきた青春。お金とエネルギーをたくさん使った。世の中への怒りを表現した。太ももイコール私、だった。バンドが自己のアイデンティティ化していた。
2009年3月。テキサスとかいうよう分からん土地で、私(の少なくとも一部)はついに終わってしまった。
オースティンに行く前日、私は大阪で顧客対応をしていた。オースティンから帰国した翌日、また出張で福井に向かった。何故なら年度末だったし私はサラリーマンだったからだ。
私(の少なくとも一部)は終わってしまったのに、日常は普段どおり忙しく過ぎ去っていく。
SXSW2009の熱狂も、終わった後の疲れも悲しみも、平静を装った日常に埋もれていく。
それからうつになり会社を辞め、結婚、乳がん手術、バークリー留学、出産、と色んなライフイベントを経た。
世の中への怒りをビキニでステージに立つことで表明するトロンボーン奏者という、他人から見たら少し頭のおかしな目立ちたがり、だけど自分からしたらカッコよくて大切なアイデンティティを失ったまま、そもそも私って何だっけ。ビキニと怒りという要素を取り除いた私には何が残るんだっけ。アメリカの文化と英語にいつまでも馴染めない不安でいっぱいの海外生活の中、アイデンティティを無くした私は殻に閉じこもった。
しかし時代は21世紀である。
私にはkindleがあった。
ボストンにいながらにして、日本の漫画を好きなときに読めるのだ。最高。
萩尾望都「あぶない丘の家」は、高校生の主人公マヒコとアズ兄ィちゃんに起こる不思議な出来事を描いた異世界・タイムトラベルSF漫画。単行本には一話完結の話が4話掲載されており、その一つに「あぶない壇ノ浦」がある。
マヒコが鎌倉時代にタイムトラベルし、源頼朝と源義経の兄弟のすれ違いをそれぞれの側から知る話だ。
話の終盤、マヒコは頼朝と義経それぞれの最期に立ち会う。そして知るのだ、平治の乱に敗れ、流刑地で一人過ごす幼い頼朝の心に、しんしんと降り積もるさみしさと悲しさを。壇ノ浦の合戦で父の仇を討ち、これぞ人生最良の日と義経に思わしめた風の清々しさときらめきを。
このさみしさは頼朝のもの。このかがやきは義経のもの。
他の誰とも完全には共有できないし、そもそも共有しなくてもいいのだ。さみしさや悲しさという負の感情でさえ、癒され解決されなくてもよいのだ。
そう。太ももサティスファクションというアイデンティティを失った悲しみは、私だけの悲しみだ。誰にも理解されなくていいし、分かち合わなくていい。悲しいまま私の心の中に大切に保存しておいてもよいのだ。なんならこの悲しみこそが私のアイデンティティの一つだ。
という気づきが、私をとても楽にしてくれた。
あぶない丘の家
https://www.amazon.co.jp/dp/B00MORJOUO/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1
そんな気づきもあり、帰国して少し経った頃、太ももメンバーから「また太ももやろうよ〜」と提案されて、私は私だけの悲しみを大切に保ったまま、いたってフラットな気持ちで「いいね〜やろう」と応えることができたのでした。
再結成ライブ「太ももサティスファクション☆ナイト NEVER DIE」、楽しかったです。
メンバーのみんなも、対バンの飯田華子さんも、DJビブラスキも、お客さんも、西麻布新世界のスタッフさんも、みんな笑顔で楽しそうで、「わ〜お。やって良かったなぁ!」って思いました。
特に私より若い女性のお客さんの反応が嬉しかったです。っていうことを本当はこのnoteでメインに書きたかったのに、余計な前置きが長くなっちゃったので、続きは後半に分けて書きますね。
メインな後半はこちら。
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