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読書感想文『アリス殺し』小林泰三・著


『アリス殺し』小林泰三・著

まずは本の裏側より。

最近、不思議の国に迷い込んだアリスという少女の夢ばかり見る栗須川亜理。ハンプティ・ダンプティが墜落死する夢を見たある日、亜理の通う大学では玉子という渾名の研究員が屋上から転落して死亡していた――その後も夢と現実は互いを映し合うように、怪死事件が相次ぐ。そして事件を捜査する三月兎と帽子屋は、最重要容疑者にアリスを名指しし……邪悪な夢想と驚愕のトリック!

『アリス殺し』

とある。
夢と現実が交錯する構成となっているこちらの作品、アリス好きとして、とても楽しめる作風でした。勿論アリスをよく知らない人でも楽しめるはず。ブージャム、スナークなど特に説明もなく出てくる用語、知らなくてもそう困ることはないです。

見る夢はいつも同じ。不思議の国ではお馴染みの三月兎や帽子屋が出てきてお茶会を繰り広げ、不条理な会話が展開される。そしてビルのキャラクターが愛すべきおバカです(誉め言葉)。

アリスは冒頭より身に覚えのないハンプティ・ダンプティ殺害の容疑をかけられている。真犯人を探す為に目覚めたあとの舞台・地球――大学で、亜理はアリスの容疑を晴らすためさまざまな行動を取ります。

不思議の国で死んだ人(またはケモノなど)は地球でも死を遂げる。
果たしてどちらが現実でどちらが夢なのか?
また、これはファンタジーなのか、それとも現実世界で大学関係者を被験者とし仮想現実の実験が行われているのか? いろんな可能性を予想しながら読み進めました。

容疑者であるアリスは不思議の国で処刑されるのを回避する為に真犯人を見つける必要があるわけですが……誰が誰のアーヴァタール(インド神話における神の化身→アバターと同義かなと思われる)なのかわからない。

迂闊に自分が誰とイコールであると情報開示したら不利になるかもしれないという駆け引き、様々な思惑により一筋縄ではいかない。そこがこの物語の面白さだと思います。
王子や井森など、一部非常にわかりやすい名付けとなってはいるものの、その「わかりやすさ」に惑わされ、最後の最後にひっくり返された感があります。

私が初めて小林泰三さんの作品を読んだのは『玩具修理者』でした。あの不気味な感じが大好きで、あの作品を書いた作家さんなら絶対面白いに違いないと読み始めたのですが、全体を通してダレるところもなく楽しめました。

なんと言っても不思議の国の人達の会話のやり取りが大好き。延々とループする、解のない不毛な会話。そして真犯人がわかってからの展開。実際私たちが存在する現実世界の殺人事件ではこんな殺害方法ありえない。でもそこが面白い。そしてちゃんと本格ミステリ。

やばい好き。
ネタばれするのはナンセンスかと思い、あまり深く突っ込んだところまでは語れないのですが、この作品は読んで損はないです。いやむしろ読め。

 



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