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読書感想文『喫茶ソムニウムの優しい奇蹟』忍丸・著

『喫茶ソムニウムの優しい奇蹟』を読了。感じたことなど。

悩んでいる人の前にあらわれると噂の喫茶店・ソムニウム。亡くした飼い猫に後悔を抱く女性、他人を優先しすぎて恋愛ができない男性、夢をかなえた結果、母親を失望させてしまったタクシー運転手……。そこでは、わだかまりを抱えた客たちの「胸に咲く花」を対価に、不思議な店主が願いを叶えてくれるという。「胸に咲く花」とは何か、そして店主の意外な目的とは――。切なくも心あたたまる連作短編集。

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喫茶ソムニウム。なんとも不思議な響きの店だ。調べたところソムニウムとはラテン語で「幻想」を意味するそうだ。印象的なタイトルをSNS上で見かけ、書店で本を手にした。作者である忍丸さんのご本はこちらの作品が初めて。

一話ごとに語り部が変わっていくスタイルの作品。「胸に咲く花」と引き換えに願いをかなえてくれる仮面を被った喫茶店店主に、羊の姿をした白と黒の執事たち。なかなか面白いビジュアルと設定である。

途中までこれは願いがどうのというよりも、タイムリープ的なお話なのでは? 過去を改ざんしてしまうのか? などSF的な印象を抱いた。第一話の語り部・佐藤さんは実際過去へ飛んだことにより、自分と向き合い気持ちを整理するだけにとどまらず、それが現在の状況に影響を及ぼしている。第二話の黒田くんにしても、学生時代に果たせなかった告白をする為に過去へ飛んでいる。過去に対して後悔の念を抱いている人たちばかりが出てくるので、致し方ないのかもしれない。――と思っていたら、途中から変わった。良かった。

こちらの作品、第一話の佐藤さんに第二話の黒田くんが片想いしている、というふうに登場人物が次々と連鎖し、みなどこかで関わりを持っている。モブかなと思って注視していなかった人物が実は重要な役割を担っていたりと、意図的に絡まり合いひとつの作品を作り出している。
登場人物はさまざまな悩みを抱え、色とりどりの花を咲かせる。また喫茶ソムニウムは来店した人の心理が反映される為、映像にされたら美しく映えるに違いない。
私の胸に咲く花はなんだろうか。

――ただ佐々木部長、あなたはほんとに使えない。いやちょっと待て。部長がいなかったらこの作品は成り立たないかもしれない。重要な役割を担ってくれているのだ部長は。うん。ひでえ。

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