2019年上半期映画ランキング

by 胡麻書体(@gomascript)


1位:バイス


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(c)2018 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All rights reserved.


 アメリカ史上最凶の副大統領と呼ばれたディック・チェイニーの人生を描いたドキュメンタリー映画、ではありません。完全なるコメディドラマ映画です。 かつて実際に起きた政治抗争を、コメディ番組のように面白おかしく紹介しています。チェイニーという男がいかにして、副大統領にまで昇りつめたのか。酒に溺れるダメ人間が、大統領補佐のフリップ係になり、最終的に人類最高レベルの権力を握るに至ったのか、その顛末が描かれています。

 ・・・・・・ところで権力とは何でしょうか。他を圧倒する支配力、もしくは一個人が集団を動かすための強制力、そういう表現が相応しいかと思いますが、アメリカ合衆国副大統領ともなると当然ながらそのスケールは段違いです。この規格外の「現実」が真面目な政治的ドラマをコメディに変貌させてしまう要因になっています。 あまりにも破天荒でとち狂った現実を前に、我々は何ができるか。パニックに陥った状態において、人は短絡的な思考に陥りやすくなります。そういったやり取りの繰り返しが現実をとんでもない方向に歪めてしまうのです。シリアスな政治ドラマが、いつの間にか荒唐無稽なコメディドラマになってしまうのも、そういった理屈でしょう。

 人は現実をどこまで虚構として消化しているのか?本作は映画体験を通じて我々に問いかけているようでもあります。


2位:スパイダーマン: スパイダーバース


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配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント


 スパイダーマン初の長編アニメーション作品。別次元のスパイダーマンたちが作品の壁を越えて共演を果たすというクロスオーバー作品。まーたスパイダーマンか、とか言って甘く見るのは危険です。今回のスパイダーマンは凄い!前代未聞の次元に映像体験に仕上がってます。アニメーションの新たな可能性を見出した、なんて表現してもそこまで大袈裟にはならないでしょう。 この手のクロスオーバーでよくありがちなのは、各作品の特徴を潰さないよう最大公約数的なやり方で、デザインの統一化を図るというものです。しかしスパイダーバースではその手法はあえて意図的に採用されませんでした。本作が目指したのは「多次元の世界観を一つのスクリーンの中に収める」こと。バラバラになった世界を、強引に捻じ曲げて一つの世界するのではなく、あくまで原型を維持したまま融合を果たすという試みです。本作はこれを絵ではなく映像で実現しました。いやホント凄まじい。一体どれほど緻密な計算をしたらこんな作品が生まれるのか。 今後のアニメーションの可能性を予感させる傑作でした。


3位:ハンターキラー 潜航せよ

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(C) 2018 Hunter Killer Productions, Inc.


 2019年上半期のダークホース。タイトルからしてB級映画臭が半端ない本作ですが、良い意味で期待を裏切ってくれました。 本作最大の魅力は、AAA級の映画では絶対真似できないフェチズム全開の原潜アクション。 原子力潜水艦というと一見マニアックに聞こえますが、ミリタリーオタクでなくてもその素晴らしさが伝わるように、上映120分の中にエッセンスが濃縮されています。 水中ならではのアクロバティックな動きと、敵潜水艦を一撃で吹き飛ばすようなワイルドな戦闘シーン、これらの連続で脳汁全開!一瞬たりとも目が離せません。 脚本については、少しお馬鹿なところもありますが「これが観たいんだ!」という観客のツボをしっかり押さえていて、こちらも好印象でした。国籍も所属も異なる集団が一つの目的のため決起するという激アツ展開。 小難しい話は一切なく、軍人としてのプロフェッショナルとしての矜持、国境を超えた信頼関係、こういったキーワードにグッとくる人には是非お勧めしたい作品です。


4位:グリーンブック

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(C)2018 UNIVERSAL STUDIOS AND STORYTELLER DISTRIBUTION CO., LLC. All Rights Reserved.


 元警備員イタリア系アメリカ人のトニーと、天才ジャズピアニストのジャマイカ系アメリカ人のシャーリーの友情を描いた作品。 トニーは 肉体面の強さと精神的タフさを見込まれ、 アメリカ横断音楽ツアーのドライバー役としてシャーリーに雇われます。 性格に難アリの二人ですが、お互いにそれぞれの才能を認め合いながら、少しずつ精神的に成長していきます。 ステレオタイプの黒人白人イメージが強調されているような気もしますが、時代背景を考えるとそれも致し方ないことなのでしょう。 作中の描写や思想などいくつか気になるところはいくつかありますが、そういった部分も含めて非常に楽しめました。これは作品のテーマにもなっているところですが、やはり個人に根付いた差別意識を取り除くには「個々の人間関係を見つめ直していく」しか道はないかもしれません。






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