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新・パレットクラブ日記 第4回 宮古美智代さん 「文章を読んで描く(1)」

パレットクラブスクール24期・イラスト卒業生コースの通学記録です。過去の授業内容はこちら

2021年7月18日の授業は、アートディレクターの宮古美智代さんが講師だった。全3回の授業の1回目だ。宮古さんと言えば『暮らしの手帖』。いつかお仕事させてもらいたい雑誌の1つだ。課題にも気合を入れるべし! そう思った。

事前に伝えられていた課題は、雑誌の見開き2ページの下半分にあるエッセイを読み、ページ上部のスペースに絵をつけるというもの。文章は、雑誌『Coyote』に掲載されたもので、写真家・岩根愛さんの『青いバックパック』だった。絵を完成させる必要はなく、ラフの状態でいいという。雑誌に描く際のノウハウを学べそうだ。

まずは、文章を読む

エッセイなので、イラストをつけるなら、筆者の心が最も動いた場面を描くのがいいのではないか……と読む前に考えた。『青いバックパック』では、中学を卒業した岩根さんが単身渡米し、北カリフォルニアのフリースクールに入学する直前の2日間の出来事が描かれている。
飛行機を降りてすぐ、迎えにきた女性から持参したリュックサックにダメ出しされたり、豊かな自然の中、全裸で泳ぐ男女を目撃したり。文化の違いを肌で感じるシーンが登場するが、私は、おそらく岩根さんの心がいちばん動いたのは次の場面ではないかと思った。

「今夜はここで寝て」と案内された小屋の中にはベッドがあったのに、なぜその夜、ポーチのハンモックで寝たのかが思い出せない。
 どれぐらい眠ったのか、見上げると無数の星が見えた。木々に囲まれた暗闇に目が慣れていくにつれ、一人になったんだ、という実感が湧いてくる。
 私は16歳になったばかりで、家出したままアルバイトでお金を貯めて、北カリフォルニアの、このペトロリアハイスクールにたどり着いた。スーッと涙が出てきたけど、さびしいのではなくて、嬉しいのでもなくて、東京にいた昨日からの一変に、自分が追いついていないのだ。
(岩根愛『青いバックパック』)

家族と離れ、誰も知る人のいない大自然の中、星空を見上げる岩根さん。今まで感じたことのない「一人きり」の感覚を味わったのではないかと思う。

頭に浮かんだのは星空の風景だった。人物を描いてもいいと思うが、風景だけを描く方が、岩根さんの感じた孤独の表現にふさわしいのではないかと考えた。あまり風景を描いたことはないが、挑戦してみたいと思った。

制作したラフ

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ラフでいいとはいえ、描き進めてみないと自分でもイメージがつかめないと思ったので、比較的描き込んだカラーラフを制作した。森の中の小屋と、ポーチに下がったハンモックを描いた。中央から手前にかけて川を配置し、森が奥までずっと続いていることがわかる構図にしている。建物や星の描き方はこれが最適ではなさそうだな…、と迷いはあったが、これでひとまずラフは完成とした。

授業メモより

宮古さんの授業では、文章に添えるイラスト、とくに雑誌の見開きページに描くイラストレーションを学ぶ。同じ文芸誌でも、抽象度の高い絵を使って「なんとなく気になる」印象を与える雑誌もあれば、具体的な1シーンの絵を載せる雑誌もあるという。

課題で描いたラフを、教室の壁に貼っていった。どの人も着目した場面は異なっており、似ている絵は一つもない。これが、今回の課題の狙いのようだ。宮古さんは「短い文章でも、人によって抜き出すシーンはバラバラ。人とは違う、というのを覚えておく。正解はない。描くのに困ったら、描く絵は全員違うんだ、ということを思い出すと楽になる。」とお話されていた。正解はない。とても大切なことだと思う。

私のラフについては、次のようなコメントをいただいた。

・自分で苦手だと思っていることが、描く上で窮屈さを生むことがある。でも、頭に浮かんだから描いた、というのは良い。気持ちに素直になることは大事。ふだん風景を描くことはないと言っていたけれど、描きたい気持ちがまさっていたらそれでいい。保険のような次案は用意しなくていい。
・風景を描くのに慣れていないのであれば、家はなしにするとか、木を曖昧に描くという手もある。見る人に絵を補完してもらう。
・星空が思い浮かんだなら、それだけに注目して描くのもいい。

また、描く上での疑問にも答えてくださった。

ラフはどれぐらい描き込めばいいのか?
→自分なりのわかりやすさでいい。自分のやり方を持っていた方が仕事を続ける上でしんどくならない。
自分の好きなものを描いていいのか?
→ケースバイケース。ただ、印象に残ったところを描くと、絵に気持ちが乗ってくる。どうして描きたいのかを掘り下げて考えること。
苦手なものも描いた方がいいか?
→自分に描けそうなモチーフでいい。苦手だと思って描くと、絵に表れてしまう。
どんな場面を描くのがいいか?
→1回目に読んだときに浮かんだもの、感想、かけらをメモしておくとヒントになる。1回目は重要なので、気合を入れて読むといい。

その他、描く際の注意点などをメモしておく。

・文芸誌では、イラストが気になるから読みたい、と思わせるのが大切。絵の役割は大きい。1冊の中で読者の優先度合いが高くなるように、「引きがあるか」を考えて描く。
・ノド(中央)のところに重要なモチーフを配置しないようにする。切れるともったいない。
・人物の位置によって、読み手に与える効果が変わる。見開きの左端に描かれた人物を読者は客観的に見るが、右端に描かれている場合は読者が主人公と同じ目線になる。
・パースのある絵は、雑誌になることで物理的に曲面が生まれるために、よりパースがかかって見えることがある。
・モノクロの絵には過去の話に見せる効果がある。
・要素はあまり多くしすぎない。読者が謎解きに疲れてしまう。

とても実践的な知識を教えていただけて、「はやく文芸誌でもお仕事してみたい!」という気持ちになる授業だった。

次回の課題は、もう少し長い文章を読み、3見開き分のイラストのラフを描くというもの。次回でラフ提出、3回目で納品。お仕事に準じた流れで、次回は宮古さんとの打ち合わせという位置づけだ。読者を惹きつけ、飽きさせないイラストを目指したい。がんばろう!

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