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詩と暮らす6 NL版 【1432文字】  #詩と暮らす #シロクマ文芸部 

「詩と暮らす事になった」
煙草の白煙を吐きながら呟く。

「なに?デキ婚?」
小馬鹿にしたような口ぶりで
幼馴染が聞いてくる。

「ああ」
そう答えると、
ビール缶の中へ煙草を落とす。
ジュッと小さく音が鳴る。

詩と付き合ってから2年ちょっと
真剣に結婚の事を考えたのは
彼女から妊娠を告げられた
あの日からだ。

遊びでは、なかったが
真剣な交際とも言い難かった。
そんな頃に彼女の妊娠を告げられ
籍を入れて同棲を始める
準備しようと考えた。

今の緩い生活から
突然責任ある生活になる
事に不安があった。

幼馴染を呑みに誘い。
飲みたりないと、俺の家で飲み直した。

スマホを触っていた幼馴染は
俺の腰に腕を絡ませる。
酒の勢いの激しい行為後、
気だるさと眠さが増している。

だが、それ以上の刺激を
与えてくる幼馴染。
髪を撫でると刺激的な
ビジュアルと快楽に負けて
再び身体を重ね合わせる。


喉の乾きで、ベッド脇の
ペットボトルを手に取ると
隣でスマホをいじっている
幼馴染にペットボトルを奪われる。

「喉乾いてんだよ」
掠れる声で言うとペットボトルの
蓋を開けて中身を飲む幼馴染。

まったくコイツは。
と呆れる俺に幼馴染は唇を重ね
無糖の紅茶が口内に広がる。

嚥下する音がひどく大きく聞こえる。
まだ水分が足りないと訴える俺に
笑いながら何度か角度を
変えて口内を貪る幼馴染。

やっと開放されて
ペットボトルの中身を一気に飲み干す。

横でケラケラと笑っている姿を
見たら、怒るのも馬鹿らしくなる。


まだ早いが、シャワーを浴びてから
詩の家に向かう準備を始める。

俺と入れ違いにシャワーを
浴びる幼馴染に、鍵はいつもの所へ
戻しておけと言って家を出た。

小春日和の中
決意も覚悟もなく不安な
足取りで詩の家に向かう。

途中、幸せそうな表情で
ベビーカーを押す夫婦とすれ違う。

俺は、ああなれるのだろうか。



途中何度かLINEを送ったが
既読が付かず電話をしても
充電切れなのか繋がらなかった。

おっちょこちょいな詩には
よくある事だから
気にせずにチャイムを押す。
充電しながら買い物か?
2、3度チャイムを押しても
部屋から物音はしなかった。

あの日受け取った合鍵で部屋に入る。

やはり詩はいない。
コンビニかどこかに
買い物でも行っているのだろう。

冷蔵庫からペットボトルを取り出し、
リビングのソファに座る。
リモコンの隣に詩の文字で
俺の名前が書かれた手紙を見つけ
開けてみる。

2枚の便箋が入っている。

1枚を読んで手が震える。

「探さないで下さい」
その文字の下に詩の名前が
書かれている。

2枚目に何が書いてあるのか
不安になりながらも
めくったが、2枚は白紙だ。


意味がわからない。
こんな冗談をする性格じゃない。
混乱する頭で、どうしたらいいか
わからず、頭を抱える。

失踪?何故?いつ?どうして?
誘拐?いや、手紙があるから失踪?
ハテナばかりで考えがまとまらない。

警察に相談?
詩の両親に相談?
俺だけじゃ何も決められない。
どうしたらいい。
いつもどうしてた?
パニックになってくる。
何から?何処から?何をすればいい?


俺のスマホから着信音が鳴り
ビクッと俺は大きく震える。

スマホには幼馴染から鍵を入れたと
メッセージが表示されている。

俺はすぐに
幼馴染に電話をかけた。







今月出産予定の妻の腹に手を添えて
行ってきますと言う。
ボコッと俺の手を押し返してくるのに
まだ慣れない。
ビクつく俺の動作に笑う妻。

子育てが上手くできるか不安だ。
一家を支えていけるのかも不安だ。
だが、妻に任せれば大丈夫だ。



俺は何も考えず
幼馴染だった妻に言われた通りに
行動すれば良い。



【1432文字】



詩と暮らす6

#詩と暮らす  
#シロクマ文芸部  
#54字の物語

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