いにしえのオタクが『美しい彼』にハマった話
何度も何度も配信サイトの「オススメ」に出てきた『美しい彼』。
このブルーのサムネイル画像、それこそ何度見たかわからない。
腐女子である私の視聴履歴を解析する優秀なAIは、ちょいちょいオススメにBLを表示する。
中でも『きのう何食べた?』と『弟の夫』と『オールドファッションカップケーキ』の表示率はズバ抜けて高い。
しかし、焦ってはならぬ。
果実に収穫どきがあるように、作品との邂逅にはベストのタイミングがあるのだ。
特にリアルタイムで見逃した作品は、ここぞというタイミングで視聴してこそ、遅れて見たかいがあるというものだ。
というわけで、ゴールデンウイークも絶賛仕事中に関わらず、連休谷間の5月2日深夜、正確には5月3日の午前1時過ぎ、私は『美しい彼』のシーズン1、第1話をクリックしたのであった。
ああ、なるほど。
これはマズい。
そう思った次の瞬間、もう窓の外は明るかった。
映画館の空席状況と仕事のスケジュールが噛み合わず、ドラマ全10話も小説全3巻もすべて2周ずつして予習はバッチリ、ついでに余った時間で出演者の動画やインタビューにもザッと目を通した。
初めてドラマの第1話を見てから約55時間後(内22時間ぐらいは仕事)私はようやく早朝の映画館に向かった。
『劇場版 美しい彼~eternal~』を観るために。
いにしえのオタクであり、数々のBLを観賞してきた私にとって、最近の「ゆるふわBLブーム」はいささか眉をひそめるものになりつつある。
流行りだからと、何でもいいから男性同士の同性愛を入れとけ、みたいなコンテンツ主義には全く共感できず、お金を落とすつもりもない。
腐女子なめんなよ。
しかし『美しい彼』はそんな気難しい私も白旗を揚げざるを得なかった。
どこがどう素晴らしいのか書き出したら、キリがなくなりそうなので、とりあえず箇条書きにしてみることにする。
ちなみに、オタクの箇条書きは普通に長文で、オタクの書く文章は超長文であることは、世間によく知られている通りである。
1.え、ポリコレ大丈夫?
あまりに作品が素晴らしすぎて見過ごされがちだが、主人公の平良が「吃音症で仲間はずれのぼっち」という設定は、ポリコレ全盛の現在、かなり攻めた設定だと思う。
吃音がある登場人物は、福山雅治主演のドラマや、朝ドラ『エール』(そういえばここでも萩原利久が素晴らしい演技をしてましたね)にも出てくるが、そのことが原因でいじめられたり、からかわれたりして、教室でも孤立しているという描き方は、なかなかに攻めている。
さらに、吃音の主人公をもう一人の主人公が「キモい」「ウザい」「しね」など、かなりキツい表現で罵倒(という名の要するに愛なんだけど)するのは、映画ならまだしも、深夜とはいえ地上波のドラマで放送するのは、なかなかのハードルだ。
この時間帯のMBSドラマは漫画原作が多く、もともと攻めた作品が多いが、これはまた一段とハードである。
BLの皮をかぶったスクールカーストの問題作、と言ってもいいぐらいだ。
製作チームの勇気に拍手喝采しつつ、清居(八木勇征)のセリフにコンテクストを読み込んで悶絶する、という久しぶりに贅沢な体験をした。というか、させていただいた。
だって最初は吐き捨てるように「キモ」って言ってたのに、段々と「キモ❤️」って清居の語尾にハートがつくようになってくるんだよ。でも、やっぱり偶にホントに「キモ!」って言う時もあるんだよ。
国語の試験で「清居の『キモ』を2種類に分けなさい」という問題が出たら、私は全問正解する自信があるね!!
2.で、いつから清居は平良のことが好きだったの?
これは入試で言うところの「合否を分けるこの1問」ってヤツですね。
しかも「いつからを20字程度」と「そう考えた根拠を100字程度」のセット問題。
第1話の冒頭、平良(萩原利久)は清居(八木勇征)に明らかに一目惚れしてる。
じゃあ清居はいつから平良のことが好きだったの?
第5話の清居ターン回(神)を見れば、すぐに答が出るような気もするのだが…。
・自己紹介のシーン(教室)
「まるでこいつの世界には俺しか存在していないかのような、そんな瞳」
→ 価値なしと1秒でジャッジを下した割には、既に平良に興味を惹かれている清居。意外にもスタートダッシュ決めてる。
※体育の時間(体育館)
→ 女の子に全く興味のない清居。巨乳というワードにもノーリアクションw
・音楽室
「いつも俺を見つめてくる奴が何をするのか、ちょっとした好奇心、それだけだった」
「こんな真っ直ぐで熱がこもった言葉、初めてもらった」
「この目でまた見つめられたい。そう願う胸の高まり。その気持ちの名前を俺はまだ知らなかった」
→ 相手に好奇心を抱いている時点で、既に恋は始まりかけているのではー。
・化学室の清掃
「こいつは俺に何を求めているのか確かめたかった。あの瞳にどんな感情が込められているのか」
→ このシーンでは清居が周りの人間に興味がないことが描かれる。しかし、気まぐれと言いつつ、平良には興味を惹かれているんだよね。
→ あと、自分の携帯の番号とダメ押しでフルネームまで手に書くのは、本人は無自覚かもしれないが、かなり好意あるよね。当の平良もまさか清居の番号とは思わず「誰の…」と他の奴らの方を見てるのに。
※休み時間の教室
→ いつものパシりを頼まれる平良に、水をこぼした吉田が掃除を押しつけようとする。そこに怒りを込めて介入する清居。これが遠回しな独占欲の発露でなくてなんなのか。
→ ヒイ君と呼ぶ吉田を責めたり、多めにお金を渡して「アイスでも食えば?」と言ったり、平良を好きにしていいのは俺だけという清居の感情も垣間見える…。
→ しかし当の平良は「清居は自分が後回しにされるのが我慢ならなかった。それだけで吉田を潰した」とお馴染みのネガティブ解釈。
・神社のシーン(ダンス教室の後)
「信じていいのか、この目を。こいつは他の奴とは違うのか。心臓の音が聞こえる。なんで」
→ この心臓の音って自分(清居)の、ってことだよね。それはもう恋では…。
→ ちなみに第5話で舞台に登場する前の待機シーン、つまり久しぶりに平良に会う前のシーンでも「心臓が爆発しそうにうるさい」という清居のモノローグあり。
ここまでが第1話分。実はここまでで結構もう恋に堕ちてる。
(※は第5話の清居ターンには出てこない、平良回のみに登場するエピソード)
完全に恋に堕ちる分水嶺となったのは、やっぱりあのトマトジュース事件。
城田に殴りかかる平良を呆然と見つめながら、清居は「昔見たアイドルファンの熱狂を思い出す。俺のために、全身全霊で、捨て身になって」と回想する。
その後、音楽室で「お前、男が好きなのか」と平良を問いつめる清居。これはもうアレですよね、関係を進めようとして、相手の様子をうかがっているよね。
平良の「わからない…。でも綺麗だと思うのは清居だけ」と聞いた清居は「キモ」と笑いながら右手を差し出す。そして(フェイクが入っての)の手にキス。
そこから清居の「あいつとの関係にちょうどいい名前はなかった」というモノローグが被さり、甘やかな秋のシーンが描写されていく。
このモラトリアムの秋のシーンでは、平良もモノローグで「清居との関係にちょうどいい名前はなかった」と同じ表現を使っている。
これはもう語るに落ちるというやつでしょう。
二人だけの名前のない関係。それが恋でないのなら、世の中の何が恋だというのか。
さて、本題に戻る。
いつから清居は平良のことが好きだったのか?
第2話では夏休みに清居たちが平良の家で勉強するために集まる。
途中で女の子たちを呼んで花火をしたり、買い出しに行かされた平良を清居が自転車で追いかけてきたりといった、青春ぽいシーンが描かれる。
ここであの伝説のシャワー掛け合う事件に繋がる自転車二人乗りがあるのだが、そこで後ろに乗っている清居が「お前、変わった奴だな」と優しい声音で平良に言う。
それを聞いた平良は自転車を漕ぎながら「清居の顔は見えない。けど、いつものウザって顔をしている、きっと」とモノローグ。
この二人の幸福なすれ違いを見た時に、あ、お互いに向けた気持ちがすれ違うだけの関係性が出来上がっている=つまり恋愛関係が成り立っているんだな、と解釈した。
そして、警察官に二人乗りを咎められた清居が「平良、行け!」と平良の名前を(初めて)呼び、その後に水シャワーを掛け合いながら「清居って呼べ」と命令する時点でダメ押しである。
改めて呼び方を決め合うとか、どこの恋人同士だよっていうね。
というわけで、これより前のシーンで恋に堕ちていたとなると、やっぱりあそこかな。
・神社で「ダンスのこと言うなよ」と口止めをした時(23字)
・これまで周りにいた人間と平良が違うのではないかと期待して、胸を高鳴らせていたから。また、その前の場面で平良に用事を言いつけた吉田を遮って、自分の用事を優先させている態度から独占欲も垣間見えるため(97字)
これで何点ぐらいもらえるんだろうか。
そもそも私は合格できるんだろうか。でも、何に?
そして全く映画の感想が書けなかったので続きもあります、多分。
【追記】
その後✖️50回ぐらい繰り返し見た結果、次のような結論を至りました。
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