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「ブラウン・シュガー」 猥雑だけど切実 セックスと麻薬と奴隷制度を歌ったストーンズの最高傑作

ローリング・ストーンズの最高傑作の1つ「ブラウン・シュガー」。1969年12月にレコーディングされ、1971年4月にリリースされた大ヒットアルバム「スティッキー・フィンガーズ」のオープニングトラックだ。

初めて聴いたのは中1のとき、1973年だった。思わず腰が動いてしまう粘っこいリズム、耳に残るギターのリフ、印象的なサックスのソロ……ミック・ジャガーが何を歌っているのかわからなかったが、最高にかっこいいロックンロールだ! と興奮した。

しかし1980年頃、歌詞の意味を初めて知ったときには腰を抜かしそうになった。特に1番。

……これは奴隷商人が黒人女性の奴隷を虐待しレイプするエクスタシーを歌ってるんじゃないか???

Gold coast slave ship bound for cotton fields
Sold in the market down in New Orleans
Scarred old slaver knows he’s doing alright
Hear him whip the women just around midnight
綿畑に向かう黄金海岸の奴隷船
ニューオリンズの市場で売り飛ばされる
顔に傷のある奴隷商人のじいさんは、うまいことやっているのがわかってる
真夜中にはヤツが女どもを鞭打つ音が聞こえてくる
Brown sugar, how come you taste so good?
Brown sugar, just like a young girl should
ブラウン・シュガー、どうしてお前はこんなに美味しいんだ?
ブラウン・シュガー、若いねーちゃんのようだぜ

過激なラップミュージックの歌詞に慣れている若い人たちには、大したことはないかもしれないが、リリースから10年以上たった80年代でもこの歌詞は十分、衝撃的だった。

更にその時、信じられなかったのが、英語圏でこの曲が大ヒットしたこと。

特にアメリカでは、1950~60年代にかけてアフリカ系の人々による人種差別の撤廃と基本的人権を要求する公民権運動の嵐が吹き荒れた直後のだったことを考えると、この罰当たりな歌詞がアフリカ系の人々から「人種差別だ」と非難されなかった事実は驚きだった。

動画はリリース直後にBBCの「Top Of The Pops」で放送されたもの。BBCですよ、BBCw

この曲が放送禁止にもならず、人種差別の曲として叩かれなかった理由は、たぶん歌詞が曖昧で、ダブルミーニングになっているからだ。

表面的には、brown sugerは「若い黒人の女性」の比喩と取れるが、もう一つ、当時、キースが完全に中毒になっていた麻薬、ヘロインをも意味する。

そう仮定すると、ブラウン・シュガーはヘロインの奴隷になった男が一発決めた直後の至福の感覚を歌ったドラッグ・ソングとも解釈できる。

キースは自伝で「ブラウン・シュガー」は曲も歌詞もミックもよるもので、歌詞はわずか45分で即興的に書かれたものだったと明かしている。

オープンGにチューニングした5弦ギターの6thとsus4を多用したリフが典型的な「キース節」なだけに意外だったが、ミックも自作だと認めていて、1995年のローリング・ストーン誌のインタビューではこの曲が大ヒットした理由を、「素晴らしいグルーヴ」「人種間セックスと麻薬というテーマの両義性」などだと指摘した上で、こう語っている。

「うまくできてしまった……すべてのゴタゴタがブチ込まれている。おれがこの曲で何を意味しようとしていたかは神のみぞ知る、だ。すごいごちゃまぜだ。あらゆる猥雑なテーマが一つになっている……今の自分にはこの曲は書けないだろうね」

多分、ロックの神様か悪魔がミックに降臨したのだろう。

「ブラウン・シュガー」には、セックスや違法薬物に関する社会規範、ポリティカル・コレクトネス、人種差別を否定する知識人の偽善など、あらゆる良識と権威を嘲笑してぶち壊すような痛快感がある。

既成の権威に反抗した60~70年代のカウンターカルチャーの結晶だと言ってもいいかもしれない。この頃、ロックには音楽の形式以上の意味があった幸福な(?)時代だったのだ。

そして全てを否定し、笑い飛ばした後にあらわになったのは、「ウソのない、リアルな欲望の切実さ」だ。それに共感した人が多かったのではないだろうか。

少なくとも私にとってはそうだった。


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