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星組・バウ「龍の宮物語」を観ました

 ちょうどこの作品の季節がやってきましたね…。ということで、ようやく念願の龍の宮物語を観ました。ずっと観たかった作品。昨日今日と2日連続で観てしまった…。とってもとっても素敵な作品すぎたので感想を書いてみようと思います。

指田先生のデビュー作

 今最も期待されていると言っても過言ではない指田珠子先生のデビュー作で、この作品がバウホールで上演された際、とんでもない作品が来た!となったそうで…(その頃はまだ宝塚に出会っていなかった…)わたしはとにかく観たかったんですよ。「冬霞の巴里」もさぞ評判いいですし、次のあーさ(朝美絢さん)主演作「海辺のストルーエンセ」も指田先生ですし…。何より瀬央ゆりあ贔屓のわたしですから。ポスター観ただけで大優勝でしたしね。キャトルに行ってはBlu-rayを買おうかどうか迷うほどに…。
 デビュー作とは思えないほどの完成度。上田久美子先生の再来と言われるだけあり、作品の完成度は非の打ち所がないほど素晴らしかったです。わたしはもう…指田先生の世界観大好き。

感想

音楽の素晴らしさ

 まず、形式名に音楽奇譚とありますね。はい。もうこっから大優勝。その名の通り音楽が素晴らしい。雨の音が大事な鍵となりますが、嫌じゃない、優しい雨音なんですよね。いつからかわからないけれど、いつの間にか降っている。と、それだけ自然なんですよね。やはり歌としては序曲「夢沈む」でしょうか。この最初の一音からこの龍の宮の世界に惹き込まれるんですよねぇ。清らかな水の流れのような曲だと思います。水のように心の中に染み込んで流れ込んでくるんですよ。そして頭から離れなくなる…。その後の曲たちもその曲の中に歌う人たちの心情そのままに描かれているのでスッと心に入ってくるんですよね。だからこそ、あの儚い、泣きそうになる、泣きたくなるような世界が出来上がっているんですよね。

世界観に浸る

 和風ファンタジー・神秘的な世界観・悲恋・主人公が儚げな色白黒髪書生・優しすぎるお人好し主人公が闇落ち…好きじゃないオタクいます?「浦島太郎」「夜叉ケ池」が原作ということですが、浦島太郎の原作でもある日本書紀に記された日本神話「山幸彦と海幸彦」も要素として多く取り入れられていたと思います。時代は明治中期〜大正にかけて。かなり「浦島太郎」だったのでこの作品は起承転結よりもどう魅せるかが大事な作品だったと思います。
 衣装も美しく、綺麗で、龍の宮の世界観に一役買っていたように感じます。あとは小道具でしょうか。指田先生は小道具を上手く使うことが得意なように感じました。玉匣や羽衣、傘等々、色々な小道具が出てきました。その中でもわたしは最後の場面が好きです。
「わたくしに会いたいと思うなら開けてはならない」と言われ、ずっと開けることができなかった玉匣。開けても開けなくてももう二度と会えない。だから玉匣を開けても開けなくても意味がない。清彦(瀬央ゆりあさん)はそこでようやく玉匣を開け、そこからは玉姫(有沙瞳ちゃん)の美しい歌声だけが無情にも響き渡り、雨が降り始める…。そして、清彦の手元に残ったのは玉姫の憎しみと恨み、己の血族の血で染まった玉姫が人を殺めてきた罪の証である羽衣だけが残っていて…残酷です。しかしきっと清彦にとっては救いだったのだと思います。清彦が玉姫に触れることってほとんどないんです。触れようとすることを玉姫が望まず、背を向けてしまうから。その時、清彦が掴むのはこの羽衣でした。彼にとって羽衣は彼女同様の存在であり、玉匣の歌声は玉姫の本当の心からの強い想いの現れではないでしょうか。

山彦(天華えまさん)

 ぴーすけ〜。この御方は何でもできるんですかね?なーんて非の打ち所のないお方。特に「夢沈む」山彦ver.は…あれは泣きますね。伸びやかで美しい歌声でした。まぁ、まさかのおじいちゃんでしたが。しかも結構な小賢しい…玉姫も言ってたけど…。飄々としていて軽い感じですけど、本当は誰よりも清彦のことを思っている。愛しているからこそ、亡くなっても尚、清彦に生きてほしいから「池に行くな」という言葉を伝えるためだけにこの世に残っていたんですね…。一度どこかへ言ってしまって、しばらくしたあとに帰ってきたから”山彦”なんですかね。(深読みしすぎでしょうか…?)

火遠理(天飛華音くん)

 火遠理命は浦島太郎の原作とされる古事記の「山幸彦と海幸彦」の山幸彦のことです。この頃研4ですって…。恐るべし。ダンスキレッキレでしたけど…。フィナーレのカノンかっこよかった…。火遠理命ですが、お兄ちゃんが好きすぎる弟でしたね(笑)超執着するやん…って思いましたけど。最後、清彦と龍神(天寿光希さん)の戦いで冷たく見ているのを観てあぁ、この人は本当に人間なんてどうでもいいんだな。と感じてゾッとしました。しかし、あれが神様というものですよね。
 火遠理命は悲しく苦しいですね。兄弟でやってきたのに、自分にとってどうでもいい人間などに兄弟の仲を引き離され、悲しかったでしょう。その悲しみが、苦しかったんでしょうね。最後の龍神の姿を見ても、兄に手をのばす火遠理命の姿が、素敵でした。

龍神 火照(天寿光希さん)

 火照命は浦島太郎の原作とされる古事記の「山幸彦と海幸彦」の海幸彦、火遠理命の兄です。まず、みっきぃを見たとき、人ならざる者の怖いくらいの美しさに息を飲みました。龍神は、玉姫を愛していたんですね。もちろん清彦が言ったように支配は愛ではありません。しかし、龍神はちゃんと愛していました。心にある純粋な願いは玉姫が嬉しんで、ここに、そばにいてほしいという願いではないでしょうか。歪んだ愛となってしまい、清らかな愛で玉姫を包み込む清彦と対照的ではありますが、その愛は悪い想いでは無いと思うのです。難しいお役だと思いましたが、そこはやはり星組のロイヤル、天寿光希の素晴らしい演技魂でしたね…。

玉姫(有沙瞳ちゃん)

 わたしはとにかくくらっち好きなんですよ。わたし、歌がお上手な方が好きで、星組の歌姫であるくらっちは、すごく好きなんですね。だからまず、この公演にヒロインにくらっちを選んだのは、すごくよかったと思います。最後の玉匣を開けたときの歌声が清らかで、でも悲しそうで。
『愛しいあなたよ、わたしのことは忘れてください』
 玉匣の歌声が玉姫の心からの願いならば、なんて悲しい愛なのだろうと思います。しかし、清彦を想ってこその歌声に泣きそうになりました。どこまでも切ない、悲しい人です。ほとんど顔色を変えない玉姫ですからほとんどの感情を声色だけで表現する。かと言って、その場で存在として死んでしまえば、最後の本当に死んでしまう場面で説得力に欠けてしまう。その塩梅は難しいことでしょうが、さすがくらっちと言ったところでしょうか。ヒロイン経験豊富なくらっちだからこその演技力に脱帽です。
「人の心が残っている内に、あなたに殺めてほしい」という言葉、究極の口説き文句ですね。玉姫が抱えてきた全てのものが溢れ出すこの瞬間は何度見ても泣くことでしょう。清彦の腕の中、清彦を命を懸けて守ることができ、最期に見える景色が清彦であったこと、幸せそうに笑う玉姫は、少女のような笑顔で、安心したような笑顔が印象的で、月の光のように美しかった。贄とされた幼い少女のときから心は成長していないのでしょう。時々出る玉姫の幼い少女のような表情がたまらなく好きです。苦しいくらいに美しく、切なかったです。フィナーレのデュエットダンスが物語の続きのようで幸せそうでまたもや泣きそうに…。
 主役を殺めようとする女性を演じることができる娘役さんは貴重です。「ひかりふる路」のきぃちゃん(元雪組トップ娘役真彩希帆ちゃん)や「エル・アルコン-鷹-」のなこちゃん(星組トップ娘役舞空瞳ちゃん)等々ですね。あの人を殺めたいと思う目をできるのはすごいです。貴重な娘役さんとしてこれからも星組を支えてほしいです。

伊予部清彦(瀬央ゆりあさん)

 せおっち…。多くのブログや感想で見かけましたが、確かにこの作品は誰が演じても美しく完成度も高く仕上がるであろう作品だと思います。しかし、人情味溢れる瀬央さんのお人柄あってこその清彦でした。まるで瀬央さんそのものを見ているようで、真面目で穏やかでお人好しで優しすぎる。ってまるで瀬央さんじゃないですか!でも、ちゃんと強い心も持っているんです。優しさも時に強さになるものです。自分を犠牲にしても他人を助ける優しさ、人に寄り添い気遣う優しさ、自分の命を差し出すことは厭わないのに大切な愛する人の命を奪うことは頼まれていても出来ない優しさ、全てを失っても尚、生きようとすることができる強さ、人と争ったことが滅多に無いのに玉姫のためならば神とでも戦う強さ、愛する人を追わず、前向きに生きようとする強さ。
「雨降る日、必ず貴方のことを思い出すよ」
という言葉。忘れてしまった方が楽なのに、二度と会えない愛する人を思う出すことは苦しいはずなのに、忘れない選択をする清彦(つまり瀬央さん)が大好きです。
 瀬央さんの声は明朗でまっすぐで、穏やかで、透明感があり、見た目も相まって男らしさの中にお人柄というか感情をそのまま映し出す稀有な魅力をお持ちです。瀬央さんの演じるお役にはどれだけの悪人でも瀬央さんらしい優しさがにじみ出ているんです。(もちろんいい意味で)
 上田久美子先生が仰っていましたが宝塚って変な劇団なんですよ。何事も成績順、学年順でありながらトップスターや主要な方々はあまりそういうものに執着しません。不思議な魅力があればそれでよし!っていう色は間違いなくあると思います。瀬央さんは決して成績上位でもなければ歌・ダンス・お芝居どれかがずば抜けて得意というわけではないお方です。不器用で、お話するとなればいつもガッチガチに緊張してます。しかし、その分、繊細にお役をつくられているからこその色があり、魅力的です。(「ベアタ・ベアトリクス」の時にも書きましたが、この瀬央さんの演技との向き合い方に影響を受けている方も既に多くいらっしゃると思います)

つまり瀬央さん大好き

 これは間違いなく瀬央さんの代表作でしょう。カレンダー占いで瀬央さんが退団するという噂が飛び交っていますが、退団するにしても、しないにしても、あと一回は瀬央さんの主演作があると思っています。(あってくれ)
 最近、瀬央さんが大躍進し、東上初主演もつかみました。「ザ・ジェントルライアー〜英国的、紳士と淑女のゲーム〜」もとても評判がいいものでしたし、もっと星組でこっちゃんや下級生を支えてほしいです。
 「龍の宮物語」は過去、観てきたバウホール公演の中で最も好きな作品になりました。毎日観たいくらい。ますます瀬央さんの端正な美しさと繊細なお芝居の仕方、くらっちの歌声に惚れ込み、好き度が増しました…。
 桜蓼の花言葉は「愛くるしい」玉姫が清彦に向ける笑顔と似ていますね。素敵な好きな花です。
 次のあーさ主演の「海辺のストルーエンセ」も楽しみですし、ひとこちゃん(永久輝せあくん)主演の「冬霞の巴里」も観てみたいです。指田先生大注目ですね!


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