サービスに奇跡はない 「客力の磨き方」 レストラン利用編2 席が気に入らなかったら帰っても良いですか?
お待たせしました。
お約束通り12月ですので、あの記事の続きです。
この記事は11月に出しました「サービスに奇跡はない」接客される技術 シリーズで、予約編、利用編1と続くシリーズものの第三弾です。
レストラン利用編2 をはじめる前に
このシリーズの一貫したテーマは好かれる客になるために。客側も接客される技術を磨いて、客力をあげ楽しい時間を手に入れましょうってことなんですが。
詳しいことはここに書いてあるので、お時間のある時に読んでみてください
さて今回もSUZUの無茶な質問に答えてくださるのは黒ワインさま。
予約編からお読みくださってる皆様には、もう説明するまでもないでしょうが、日本ソムリエ協会認定ソムリエであらせられ、ミシュラン星付きレストランでもサービス担当としてお仕事なさってた経験もあり、幅広く知識をお持ちの黒ワインさまに、SUZUが普段レストラン利用で聞いてみたかったことを、遠慮なく聞く企画です。
↑予約編
↑利用編1
それでは、利用編2はじまります。
今回の記事の最初の質問はコレ。
席が気に入らなかったら?
黒ワイン:ちょっと難しい話ですよね、これ。要望する側も「クレーマーだと思われるんじゃないか?」という気持ちと「せっかく来たのだから楽しめる食事がしたい」気持ちとのジレンマになりそうです。その両方の気持ちをふまえた上で答えたいご質問ですね。
その悩み、わかります。僕もあまり自分からは言えない性格なので。みなさん共通の悩みになりそうだからこそ、ぜひ本音で答えたいので、ちょっときつい表現も入りますがご容赦ください。
まさにレストランを楽しみたい人ほど悩んでしまうこの話。まず、席に要望がある場合は、当日でもはっきり伝えてくださってかまいません。それで「この客面倒だな……」と顔に出す店はその程度なので次回以降行くのをやめましょう。
その席に座りたくない理由を伝える
ただ、お願いしたいことはそのときに必ず理由を一緒に伝えていただきたいんですね。たとえば、スピーカーの音が気になるなら音量を小さくして解決できるかもしれません。エアコンの問題なら空調の調整で快適にできる可能性はあります。隣がうるさそうなお客様の場合は、店のスタッフが目を光らせて騒ぎそうになったら止めに入ることができると思います。
たとえ席が変更できなくても、その場の居心地がよくなる可能性は十分あるんですよね。
席の希望を事前にリクエスト
もちろん。それこそ「あの席が好み」という要望は当日でもお伝えしてください。実際に席は替えてもらえなくても、「お客様のおっしゃる通りあのお席はとても人気でして、次回ご予約のときにはご指定ください。空いておりましたらぜひご案内させていただきます」とその席を取るための裏技をお伝えできますし。
そもそも席が移動できればなんの問題もないのですが、現実的に予約で席が固定されていて動かせないケースというのが多々あります。実際、僕自身は席を動かしたことも、動かせなかったこともどちらもあります。当日テーブルを替えられるかは、完全にその日の状況次第なんですよね。
「良い席でお願いね」なら言わない方がいい
そうですね、基本はどの店も早く予約くださった方から上席に予約を入れていくんですよ。一般的に窓側は人気になることが多いのですが、窓が近いと寒くて嫌だ、なんてケースもあります。「良い席でお願いね!」と言うくらいなら具体的な希望を伝えてくださると。
できないことにはできないとお伝えしますが、できることならなんでもしてあげたい。それが店側の気持ちなので、ぜひ「クレーマーと思われるかも……」と臆せず、要望ははっきりと伝えてほしいです。
ちなみに僕の場合は、そういうご要望のあったお客様は、顧客データに必ず記入していました。「店内中央の席不可」「空調冷えすぎ注意」とかですね。それは次回の予約時に生かされました。お電話を頂いた際にこちらから「お席は窓際でお取りしてよろしいでしょうか?」と提案していました。
だから、我慢をする必要はありません。要望ははっきりと伝えたほうが、長期的にお互いにとってよい関係を結べると考えています。
リクエストにどう応えるかで店との相性をみる
「帰る」もひとつの選択肢
まさにそうですね。それらを伝えた上で、店側の対応に納得がどうしてもいかない場合は、それこそ当日でも「帰る」という選択肢はあるのかもしれません。その時点で店との間に良好な関係が結べないということなので、仕方のないように思います。これは、どちらが悪いということではなく、相性とか価値観の相違の問題だと考えたほうがいいです。価値観の合わない相手と無理に付き合う必要はありません。
コミュニケーションを積極的に取ることで回避できる
ただ、僕自身、いろいろなお客様と接して多くの要望をいただいてきましたが、一人も即帰ったお客様はいませんでした。解決できないケースというのは意外と少ないものですし、お客様のことをきちんと考えている店であれば正当な要望には誠意ある対応をするものだと思います。
正しいオーダーの仕方ってあるの?
基本の流れは、まず、食前酒を尋ねられます。これは断ってもかまいませんが、今はノンアルコールや低アルコールの飲料を用意している店も少なくありませんから、好みのものがありそうか尋ねてみてもよいと思います。
そのあと料理のオーダーですね。コース料理またはアラカルトで注文します。コース料理もアラカルトも、大まかには「前菜」「メイン」「デザート」を注文するイメージですね。
食前酒のお作法
「とりあえずビールはレストランでは禁忌」
オーダーしたら一目置かれる食前酒
「おぬし出来るな!?」に当てはまるかどうかはちょっと不安ですが、「シャンパン以外には何がありますか?」とお客様に聞かれたときには「お、本気出しましょうか?」と僕なら思います。
たしかに9割以上は乾杯がシャンパンになるので、どうしてもスタッフ側も習い性になってしまうところがあって。だからちょっと違う尋ね方をされると楽しくなりますね。
さて、その「シャンパン以外」について。キール(白ワイン+カシス)やシェリーが定番の食前酒として勧められていた時代もあるようですが、今はお客様の要望も多様化しているので、店によってはフレッシュフルーツを使ったカクテルやオリジナルの食前酒を用意しているところもあります。
特に今や「飲めても敢えて飲まない」方々が出てきているほどなので、昨今のノンアル需要を敏感に感じてラインナップを揃えている店もあるでしょう。それらの内容を聞いてみてあまり好みのものがなければもちろん「泡で」としてもいいかなと思います。
本気を出した時にお客様に薦める食前酒
たとえば特定の、定番ながらもあまり見る機会がないリキュールやカクテルでしょうか。海外だとベルモット酒(フレーバーをつけたワイン)やネグローニ(カンパリ、ベルモット、ドライジンのカクテル)などを注文する方もいらっしゃいますよね。アルコール度が高くても大丈夫なら、ちょっとした非日常感の演出のお手伝いとしてそれらを提案します。実際にそういうお客様がいらしたことがあって、「カッコいい飲み方だなぁ」なんて思いながら接客をしていたのを思い出します。
空きっ腹にいきなりアルコールを入れたくない時は?
いやぁ、それは無念ですよねぇ……。さきほどもちらっと話題に出しましたが、ノンアル、または低アルコールの需要って増えてるはずなんですよ。ただ、まだまだお店によってそのラインナップにかなり差があるので、どこでも用意できる、定番のアルコール低めのものならスプリッツァーでしょうか。白ワインを炭酸で割ったものですね。
もしくは「とりビー」を少しだけ避けてみた意味で、シャンディガフはいかがでしょうか。ビールのジンジャーエール割りです。これもだいたいの店が用意できるはずです。
僕自身だと苦い味が好きなのでカンパリやペルノー(どちらも薬草系のリキュール)をソーダで割ってもらったものを頼んだりします。
飲めないのではなく飲まない日のノンアル
ノンアルだと、最近は本物のワインにかなり近い香りと味わいのブドウジュースが出てきていますよね。僕も何回か飲んだことがありますが、美味しいものはすごく美味しい。
あと、意外と盲点なのがハーブティー。これは食後用に用意している店も多いと思うのですが、お湯で少し濃い目に入れたものを氷を入れたグラスに注いでもらえればこれだけで十分、食前ノンアルになります。提供までちょっとお時間をいただくことにはなりますが、胃も心も落ち着かせるドリンクとしてはいいと思います。
ノンアルのペアリングも少しずつ出てしましたよね。僕が今回提案したものはあくまでどこでも用意ができそうなものの話なので、気の利いたお店だと予約時に「あまりお酒が飲めなくて」とか「ノンアルコールは用意がありますか?」と尋ねていただければその日に用意できるものを、オリジナル含めて提案してもらえるかもしれません。
食前酒についての疑問点
食前酒ではなくボトルワインからはじめたいとき
その場合ははっきり「ボトルワインから始めたいのですがワインリストをいただけますか?」と言っていただければ。店側に断る理由はありませんし、レストランでの振る舞いとしても全く問題はありません。
もしくは、そもそもそのワインをメニューを選びながら決めるのもツウですよね。「ボトルワインと料理を一緒に決めたいので、食事のメニューを先にいただけますか?」と言っていただければ大丈夫です。食事を決めながら「このメイン料理に合わせるとしたら、このワインはどうでしょうか」みたいに店のソムリエと相談しながら決めていくのも楽しいと思いますよ。
先に水だけ頼んだっていい
ぜひ!ちなみに、メニューを決めている間もし口寂しくなるのであれば、先にお水を頼んでくださってもいいと思います。
メニューをじっくり考えてからオーダーしたいとき
うーん、サービス側の問題はありえますよね。あとは、テーブルにメニューを置くのが合図だということを知らないお客様もいらっしゃるので、そこに配慮したつもりが余計なお世話になってしまうパターンもあるとは思います。
僕自身も最近、高級レストランで同様の経験をしたのであんまり普及していないんだなとちょっと驚きました。
実は僕自身、店で先輩にそれを明確に教わったことってないんですよね。それこそ僕がまだ若いときに、お客様にオーダーを早く伺いすぎて「まだ選んでます」とピシャリ言われてしまった経験があるんですよ。恥ずかしい話ですが、僕がオーダーの合図を理解できるのはお客様に鍛えてもらった結果と言えるかもしれません。
そんな現実もありますから、「まだ選んでるよ」を明確に表す方法がもしあるとすれば、メニューを見ながら会話を続けることくらいでしょうか。それならスタッフは「まだ相談してるんだな」と考えるかなと思います。
それでもその仕草に何も感じないスタッフがいたら、もうそれは仕方ないので「まだです」と伝えてあげてください。
レストランを出たい時間がある場合
「早く出してね」っていつのタイミングで言うべき?
予約時に言っていただけるのが一番ありがたいですが、当日分かることもありますよね。その場合はオーダーの注文前に言っていただくのがスマートです。「〇〇時くらいには店を出たいのですが」と。
オーダーを受けてからその中に時間のかかる料理があったりすると大慌てになりますが、オーダー前なら「こちらの料理は出来上がりまで1時間半ほど見ていただいておりまして……」とお伝えできます。
コースだと2時間くらいかかることは知っておいて欲しい
実はこれ、以前働いていたレストランでミーティングの議題に上がったことがあるんですよね。観光地にある店だったからなのですが、レストラン慣れしていないお客様も多く、フルコースにまさか2時間以上かかるなんて想像できないわけです。
そうなんですよね。知らないと結果的にお客様にとって損になります。コースの半分くらいになって、「あと30分で出たいんですが……」となるとそこからバタバタと料理を出すことになって、ゆっくりとした時間とは無縁になってしまうことがありました。
その店では、そういうことが何回かあった結果、オーダーを取るタイミングで「こちらのコースですとだいたい食後のコーヒーまでゆっくりお召し上がりいただいて2時間から2時間半くらい見ていただいておりますが、このあとのご予定は何かございませんか?」と尋ねるようになりました。
いろいろ食べたいのでシェアしたい
テーブル上で客が勝手にシェアするのはご法度
レストランで、テーブルの上でお客様自身でシェアをなさるのは、できれば避けたいですね。ビストロなどのカジュアルな形態であればまだいいのですが。
シェアについては店によるスタンスの違いがかなりありそうですが、基本は店側に伝えていただければ問題はないはずです。オーダーを伝えながら「この料理は二人でシェアしたい。この料理は一人ずつ一人前でお願いします」というように伝えていただくのがいいですね。そのときに「こちらには少なめの分量で」と伝えていただいてもかまいません。
そうすれば最初からそれぞれのお皿に分けられた状態で提供してもらえるか、シェア前提でテーブルセットをしてくれるはずです。
ポーションを減らして欲しいとき
初めての店なら前菜の量を見てから
馴染みの店の場合、量がわかってるはずなのでオーダー時に伝えるのはアリですね。初めての店の場合は最初の前菜の量を見てから「食べ切れなさそうなのでメイン以外減らしていただければ」のように伝えていただいても。店によって分量の塩梅ってかなり違うので、食べる前から「少なめで」と言った場合に思ったより少なすぎた、みたいなこともありえますから。
ちょっとずつ残されると作り手は気になる
ちなみに、ちょっとずつ残していただいても全然かまわないのですが、店側の心理としてはそれを見ると「お口に合わなかったのかな……」と気になってしまうんですね。だから、「美味しかったんですけれど量が多くて」と伝えてくださるとありがたいです。
すごく気に入った料理が出てきて「これだけは全部食べたい!」みたいなこともあるでしょうから、食べられなさそうだからといって変に遠慮して「少なめで」という必要はありません。
皿ごとの量の調整もできることもある
そうですね、あとは先ほどのシェアの話にも通じますけれど、「私の分を少なくしてその分はこちらに」なんていうこともできることもあります。これはできる料理とそうでない料理とあるので率直に聞いてみてください。この方法だと残さず全部召し上がっていただける分、店としても嬉しいです。
まとめ
今回も色々な質問に丁寧に答えてくださった黒ワインさま、本当にありがとうございました。
わたしが「席が気に入らなかったら帰っていいのですか?」と聞いた時の黒ワインさまの困った様子が忘れられません。
自分でもこの質問困らせちゃうかなと思いながらお聞きしたのですが、今回も見事な答えをくださって、黒ワインさまに聞いてよかったと思いを新たにしました。
そして皆さまお気づきでしょうが、この利用編2の段階では食前酒とかオーダーまでしかいってないんですね。まだ食べてないんです。
ということは、わたしの質問は2022年も続くってことですね。
黒ワインさまにはまだまだ聞きたいこと質問がいっぱいあります。
たとえば
頼んでない間違った皿が目の前に置かれた場合って作り直させる?
それとも我慢して食べるべき?とか。
建前上はコース食べている間は「トイレには立つな」がマナーだとされてますけど、我慢しながら食べると味わかんなくなるので現実的な話としてトイレに立っていいタイミングを教えてほしいとか
会計の時に走馬灯ジャーニーしたいから明細見せてってほんとに言ってもいいの?とか。
2020年からはじめたこの企画、2022年も続きます。
食べ終わってレストランを出られる最後まできちんと仕上げたいですね。
よろしくお願いします。
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