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自利利他

私は長いこと盛和塾の塾生でした。盛和塾が解散した後も、その受け皿である広島盛心塾に加入し、勉強を続けてきました。稲盛塾長が出席される多くの例会、全国大会、世界大会にも足を運び、稲盛塾長の慧眼に触れる機会、また気付かされることが多々ありました。その度に「経営者としてどうなのか」と厳しい指摘を突き付けられ、ゾッとするとともに背筋が伸びる思いでした。

今回稲盛塾長のご逝去の報を伺い、色々な思いが浮かんできました。塾長からは経営についての示唆と共に、人がどう生きるかということを仏教や中国古典も引用しながらわかりやすく教えていただきました。

その中、ブッダの最後の旅、いよいよブッダの入滅、死の床に就いた時に、弟子のアーナンダが「ブッダが死んだらどうすればよいのか?」と問うたのに対して「アーナンダよ、あなた方のため私によって示し定めた『法と律』が、私の死後はあなた方の師である。」
という有名な教えがあります。

「法」はどう生きればよいかという原理原則、戒律であるブッダの教えであり、そして仏法僧というように、仏は悟りを開いた先人に学び、僧はサンガ、共に修業し学ぶ仲間と共に学ぶ
ということだったと記憶します。

ですから、盛和塾を解散した時に塾長は「フィロソフィを始め機関誌や、多くの自著を残しているし、動画もある。そこに繰り返し示しているのは経営、生き方の原理原則。ひたすらそれを学び実践することしかない」と言っておられました。
つまりブッダの言われる「法」を具体的に示していただいていますから、我々は解塾後もそれを繰り返し学んでいます。もちろん一人では挫けたり怠けたりすることもありますから、愚直に続ける仲間として盛和塾生がおり、盛心塾生と共に勉強会で学んだり、機関誌を読みあう機関誌マラソン、またデジタルライブラリーで塾長の講話を学んでいます。これこそ「僧(サンガ)」だと思います。

ブッダの最後の言葉に「自灯明、法灯明」という言葉があります。「自らをともしびとする。自らをよりどころとする。と同時に、仏の教えを示した真実のことば、法をよりどころとし、ともしびとしていかなければならない。」
というものでした。稲盛塾長の言葉態度は完全にこれに重なります。
盛和塾の解散、また塾長のご逝去にあたっても、全く揺らぐことはない進むべき道と杖を与えていただいています。またともに学ぶ仲間もいます。後は塾長の叱咤激励にこたえて実践の石を積んでいくだけなので、師を失い途方に暮れることは全くありません。

稲盛塾長は経営の神様だと新聞等では書かれていますが、塾長はそう言われるのを嫌っておられると思います。塾長は自ら言われているように唯一「心を高める」ことを通じて「経営を伸ばす」ことが出来ることを示していただいた仏教でいうなら、悟りに至る菩薩の道を進んだ先駆者という方が適切ではないでしょうか。塾長のご逝去は24日だったそうです。今回のご逝去の発表は初七日法要が明けたタイミングだったと思います。
さらに老衰でお亡くなりになったということで、森のなかの巨木がいつしか枯れて朽ちていくイメージ、それは苔むして、それに新たな植物が根をはり、芽が出て、さらに多くの生き物の住処となるような姿と重なります。なんと見事な最期だったかと心が揺さぶられます。

塾長の紹介の中でよく「利他」という言葉が使われます。私も盛和塾、盛心塾で学びを続ける中で「利他」という言葉に何度も気づきをいただき、色々な場面でそれが実践されているのを実感しています。

先週の日曜日の朝のテレビで見たこれもそうでした。今回は小松由佳さんでした。

小松さんのことは本を二冊ほど読んで感心を持っていたのですが、この番組はなかなか良くできていたと思います。最初に読んだのはこちらの本。

ついで昨年読んだのがこちら。

本当に凄い、凄まじい人だと思います。今週の土曜日の午後ETVで再放送があるので、ご覧になると良いのではないでしょうか。前述のようによく利他と利己、自利利他という言葉が使われます。
「自利利他」をググると「自らの仏道修行により得た功徳を、自分が受け取るとともに、他のためにも仏法の利益をはかる」というのが出て来ますが、批評家・随筆家の若松英輔氏は、著書でこう読み解かれ、しっくりきます。

「『他者を利する』ということと、『自分を利する』ことは、決して反対のもの・別々のものではなく、切り離すことのできない一体のものです」

「自分で自分のことを愛することができれば、その人は自分を固有なものにできます。そして、そのうえで誰かのことを愛することができれば、その人は他人のことを固有な存在として認めることができます。自分自身が固有であると知ることは、他者が固有であると知ることです。それはすなわち自他ともに等しい存在であることを経験するということでもあります。」

シリアに住む人たちはこのことを生活の根底におき、その事に小松由佳さんは気付いて、社会の弱者の生活に近づく、自利利他の実践を積んでいると思いました。

稲盛塾長は経営とは、社員を自分の家族、自分と同じような大切なものだと心に深く刻むことスタートだといわれました。

来週の「こころの時代」はNPO法人抱樸の理事長でもある奥田牧師です。二年ほど前、コロナが広がり大騒動の時にこの番組を見ました、その再放送です。奥田氏もまた「自利利他」を実践し、またかかわった弱者に寄り添って彼らが自利利他の道を歩むこと、また互いに関わり合う姿を教えてくれました。貧困や苦難は海外の話ではないこと、またシリアの人々のように共に生きることを示していただきました。

これら多くの自利利他の実践者の姿から学ぶことは大変多いです。また彼らの困難に立ち向かう勇気は、中小企業の経営者の私にとって何よりの励みです。その「生き方」の灯りを示していただいた稲盛和夫塾長に心より感謝申し上げ、ご冥福を重ねてお祈りしたいと思います。   合掌

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