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ゆでガエルの時代の青春小説

青春小説をwikiでみるとこうあります。

「青春小説(せいしゅんしょうせつ)は、恋愛小説や、冒険小説のように小説全体(大きなまとまり)からある基準で小さく分類した小説のことをあらわし、その物語における主人公、または主人公を含めた登場人物が学生であり、登場人物の年齢やテーマからビルドゥングスロマンの体裁をとることも多い。」

ビルドゥングスロマンというのは=「主人公がさまざまな体験を通して内面的に成長していく過程を描く小説のこと」とのことです。

なるほど日常を一瞬だけ切り取るものもありますが、数日や数年という経過の中での主人公、登場人物の変化を浮き彫りにするものでもあるのですね。

実は今月非常に印象的だった小説を3つ読みました。共通するのは主人公が女性ということ、周囲との関係を築くのが難しいことでしょうか。

「黄色い家」

黄色い家はピカレスク的な所もありますが、これは今年一番の作品。上期のNo.1でしょう。またこれが読売新聞の連作だったことに驚きます。新聞連載は短い文脈で翌日に掲載に引き込むような仕組みが必要ですし、社会の変化を追いかける新聞紙面だけに、連載期間中それにも影響されます。
そう言えば平野啓一郎氏の「本能」もまた毎日新聞の連載でしたが、こういう掲載はなかなか難しいだろうに、両氏とも屈指の筆力をお持ちだと今更ながらに感銘です。「黄色い家」もまた優れた文学になっていますが、川上氏は海外での評価が高いので、これでブッカー賞をはじめ多くの文学賞を取るでしょう。ただ難点があるとすると、20歳前後の女性主人公たちの「言葉遣い」をどう訳するのか、これが興味津々です。

「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」

これは私が推しの深川麻衣氏が主役をする映画の原作本だそうで、そのニュースを知って図書館で借りました。全く知りませんでしたが、なかなか評判だったんですね。
ノンフィクションあるいはそれをベースとした作品だと思いますが、こちらはアラサーの女性。物凄く肩に力が入って生きていたのに…というのは黄色い家の主人公にも似通ったところがありますし、お金のこともまた。
さらに「黄色い家」というある意味シェアハウス同様に、こちらもオッサンとのシェアハウスというのも共通点があります。

「成瀬は天下を取りにいく」

こちらは女子高校生が主人公で、これまた不思議な性格の成瀬さんが主人公。地面から少し浮きあがっているような性格は、「黄色い家」の黄美子さん、あるいは「おっさん」のササポンに似ているのかもしれません。

成瀬さん自身の独白ではなく、成瀬さんに関係した周囲の人の成瀬観の積み上げによるものです。

この三冊、切り口は全く三者三様でしたが、本当に面白い。かつては青春小説は主人公が男性というのが多かったですが、今はもう影が薄いのかな。そもそもこの三人、生命力を強く感じます(黄色とおっさんの方は何度も壁にぶち当たり、ボロボロになるのですが)。
今みたいな「ゆでガエル」の社会、違和感がありつつ見て見ぬふりをし、足踏みしているような時代は、男性はゆであがり、女性の方が生きる力、立ち向かう力が強いから飛び出せるんでしょう、。だから女性が青春小説の主人公になる時代なんじゃないでしょうか。

タイトル写真は先週買った(ダウンロードした)グリムスパンキーの新曲「ラストシーン」でゲットしたスマホの壁紙。「黄色い家」に繰り返し出て来る風水で西に黄色というのが頭に残っていて、この色合いをすぐに待ち受けにしました。松尾レミ氏の筆によるものとか、江口寿史氏の風合いあります。


なお「黄色い家」の400ページに唐突にレンタルビデオのタイトルが3本出ます。

フェリーニの「カリビアの夜」
タランティーノの「レザボア・ドッグス」
そして「奇跡の海」。

主人公はその中から「奇跡の海」を選び見て、なんともやりきれない気持ちになります。

私はこの中では「カリビアの夜」しか見たことがないのですが、カリビアもやりきれない場面は多いものの最後は希望が微かに見えます。
確かにそれだと「黄色い家」のこの場面にはそぐわないでしょう。
「奇跡の海」も見なければと思いますが、やはり精神的にタフな時でないと立ち向かえられないかも知れませんね。

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