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驢馬と山羊

先日読んだ北山耕平氏の「地球のレッスン」に、とても印象深いところがありました。以下無断で抜粋します。

生きていくというのは

これはあるインディアンの村の話だ。ある日、一頭の年老いたロバが涸れ井戸の深い穴に落ちるという事故が起きた。ロバの飼い主だったインディアンの爺さまが穴の縁から下をのぞきこんで、なんとかしようと考えている間、ロバは悲壮な声で何時間も鳴き続けた。
しかし結局爺さまには、ロバを助けるためにはなにもできないということがわかっただけだった。穴は深く、助けたくてもどうしようもないという現実を、最終的に爺さまは受け入れるしかなかったのだ。ロバも年齢が年齢だった。仕方がない、ここがあの老いぼれロバの墓場になるのかと爺さまは考えた。大がかりなことをしてどうしても助け出さなくてはならないほど若くバリバリ働けるロバではなかった。爺さまは涙をのんでその穴を埋めることにした。穴をこのままにしておくと、村の子どもたちが落ちないともかぎらない。
爺さまは一族の者たちを呼び集めた。事情を説明し、穴を埋める作業を手伝ってもらうことにした。人々は手に手にシャベルを持ち、次々と土を上からおとしはじめた。しばらくの間、穴の底のロバはいっそう悲壮な声で絶叫していた。なにが起こっているのかロバは気がついたのだ。年老いたロバの恐怖にあふれた鳴き声が穴のなかで響いていた。ところが、しばらくすると、その声が嘘のように静まりかえった。村の者たちも、それには驚いた。

穴が半分近く埋まった頃、ロバの飼い主だったインディアンの爺さまが意を決して涸れ井戸の穴の奥をのぞきこんでみた。 いったいなにが起きたのか? そこで見たものに爺さまは腰を抜かすほど驚いたという。穴の下で、上から降ってくるひとかたまりの土塊が自分の背中にかかるたびに、ロバは実に驚くべき行動をとっていた。背中に土が降りかかると、ロバは体を震わせてその土を払いおとし、そして払いおとした土を足で踏み固めていたのだ。そうやってロバは一歩一歩階段をのぼるように上にあがってきていた。 一族の者たち全員が驚いたのは、それからまもなくして、ロバが穴の縁に姿を見せ、縁に足をかけると穴から這いだして、勝手に外に出て、とことこと歩いていずこへか姿を消してしまったことだった。

人生というのは、上から泥の塊が降り続けるようなものだろう。その泥は、実にさまざまで、ありとあらゆる種類の泥が降りかかってくる。人生を生き抜く鍵は、体に泥がかかったらそれを振りおとし、振り払った土を足の下で踏み固めて、しっかりと上にあがっていくことなのだ。誰の人生にもたくさんの問題が待ちかまえている。その問題のひとつひとつが、踏み固めて行かなくてはならないものなのだな。あきらめて立ち止まってしまったら、われわれは穴から抜けだすことはできない。重要なのは、どんな状況に陥っても、そのロバのように最後まであきらめないことなのだ。体に降りかかった土を振り払い、払い落とした土を足で踏み固めること。
(「地球のレッスン」北山耕平)

タイトル写真はその「生きていくというのは」というコラムのイラストですが、これを見て思い出したのがこちら。

これはディエゴ・リベラの「The Flower Carrier」という作品をサンフランシスコ近代美術館で見た時に衝撃を受けて買った絵葉書です。人もヤギも淡々とあきらめずに生きていかねばと思うのです。

https://www.sfmoma.org/artwork/35.4516/

これ以降メキシコ美術に目が向き、メキシコシティに行った時、国立宮殿の『メキシコの歴史』に足がすくみ、またグアダラハラに行った時もオロスコの『炎の人』にも強烈な印象を持ちました。

ちょうど今週末から息子夫婦が新婚旅行でメキシコに行っています。日本では見れない色々な風景、出来事、他所の場所で懸命に生きる人を知ってほしい。

さて今度は「ヤギ」の話。「ヤギと少年、洞窟の中へ」です。

実はこの本でハッとしたのは、後半の沖縄戦で亡くなった沖縄師範学校女子部と沖縄県立第一高等女学校の生徒の名簿。黒田征太郎氏の花の絵が付けられて「紙碑」と書かれています。211名の紙碑。

ハッとしたのはこの花。2004年に広島に黒田征太郎氏が来られた時に、減額ドーム前のアクションペインティングのお手伝いを少ししました。その前に今ならクラウドファンディングでしょうけど、その頃は黒田氏が花の絵を描いて一枚なんぼで寄付をしてもらったのです。少し余ったので、その残りを買い取り(寄付)、私の手元に今も少しあります。その一部がこちら。

何枚か(何本か)は人に差し上げたのですが、残っているものは手元でなくどこかに出さなきゃと、この本を読んで思いました。

最後に旧Twitterで見ていた(Xになってからアプリ削除しました)高田晃太郎氏のイラン・トルコ・モロッコをロバと旅をするツイートはとても面白かったので、本になった『ロバのスーコと旅をする』を読み始めました。急ぐばかりとか便利至上でなく、こういう時間の流れが大事じゃないのかな。

女房の友人夫婦がポルトガルからサンティアゴまでの巡礼を先日され、私も今年の春に徳島の日和佐のゲストハウスで台湾のおばあちゃんから「あんたも歩きなさいよ」と叱咤されたので、本腰を入れ、何回かに分けて88か所の遍路をしようかと考えています。
四国遍路は弘法大師と同行二人、女房の友人は夫婦の同行二人、高田氏はロバと同行二人ですね。

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