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駱駝とヤク

先日松山のフェリーの上で読んだ本に「天路の旅人」(沢木耕太郎)がありました。ようやく読み終わったのですが、この主人公の西川一三氏、超人です。

戦時中に満州からチベット、インド、ネパールを踏破するのですが、沢木氏はあるきっかけで西川氏と交流が始まり、本にするともどうとも宙ぶらりんな状態なのですが、何度もその旅の話を聞くことになります。しかし漠として作品にする手掛かりがなかったようです。それはかつて西川氏が書いたその記録「秘境西域八年の潜行」 芙蓉書房が出版され、その後中公文庫に納められているものの、それらの本には間違いや飛ばした箇所があることを話の中で気がついていたこともあったからなのです。しかし、西川氏が亡くなったことを聞いた後、何とか形にしたいという思いが募り、かつて中央公論で編集をして既に退職している方のもとに「芙蓉書房」時代の原稿があることを知り、それを手に入れ芙蓉、中公でカットされている箇所を西川氏の話と合わせていけば、正史(?)が残せると考えるようになります。
ここまでがこの本の第一章迄の導入口。

第2章からは西川氏の原稿を基に、聞いた話を整理しつつ西川氏の8年間にわたる信じがたい足取りを書いています。
そして第15章で帰国しその後、終章で亡くなるまでの生活が書かれ、「あとがき」で加えるべき足取りを書いています。
つまり574頁の内500頁が西川氏の8年にわたる踏破記録になります。この足跡をグーグルマップに展開した力作がありました。

この本を読んで思い出したのが「脱出記―シベリアからインドまで歩いた男たち 」(スラヴォミール・ラウイッツ)です。こちらもほぼ同じ時期にシベリアのソ連強制収容所から脱出した7人で、ゴビ砂漠を踏破してインドに逃げたというノンフィクション。

西川氏が東から西+南、とすればラウイッツ氏は北から南ということになります。この踏破行も信じがたいものでした。是非「天路の旅人」を読まれた方はこちらも読んでもらいたいが、もう絶版なのかな?図書館でどうぞ。

私も読み返してみました。西川氏よりは数年前の時期、行程も青海からは重なっているみたいです。タイトル写真がそのルート。

しかしながらこの「天路の旅人」で少し引っかかった箇所がありました。それは西川氏の食事の話。

「独立してからは、元日を除いて、364日働く日々が始まった。
朝は、食事を済ますと、自転車に乗り、9時までには店に行く。
(中略)
昼は、カップヌードルとコンビニで買う握り飯を2つ食べる。これまおまた、364日変わらなかった。」

そして、このすぐ後にこういうのが書かれています。

「1988年(昭和63年)には、東京放送の看板番組の一つだった「新世界紀行」という枠の中で、西川の旅についてのドキュメンタリー番組が放送されることになった。」

とあるところで引っかかったのです。私はこの時代東京・埼玉・広島にいましたが、コンビニなんてそんなにありませんでした。つまり1988年より前に西川氏の住む盛岡にコンビニはあったのか?ということです。コンビニが爆発的に増える前だったのでは?

そこで調べるとセブンイレブンの岩手への初出店は2008年、ローソンは系列のサンチェーンというのが1978年に東北に進出とありますが、盛岡の出店はよくわかりません。
ただ岩手県のローカルコンビニに「キャメルマート」というのがあり(その後ファミマに吸収)、こちらが1973年に岩手に第1号店がオープンしていたので、もしかしたら西川氏がいきつけのコンビニはこれだったのかもしれませんね。

西川氏は内蒙古から青海省までは駱駝を使っていましたから、この「キャメルマート」はピッタリなのかも。ちなみに青海省からチベットまでは犛牛(ヤク)が荷物持ちだったそうです。
ヤクっていうのは英語名のyakなんですね。

ドゥーワップの歌に「Yakety yak」(ヤケティヤック)というのがありますが、このYakはヤクのことだそうで、なぜか「ペチャクチャしゃべる、うるせいわ」みたいな意味だとか。本の中にもヤクがよく鳴くシーンがありますが、そうなんでしょうか。
さらにこの本でヤクは泳ぎが上手い、また蒙古人は泳ぎをしないというのを初めて知りました。


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