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翻刻

今年春から江戸期を中心とした崩し字を読む勉強会に参加しています。と言っても毎月1回2時間ネットで行う講座です。
これが良いのは信用調査会社の資料室がやっていて、経済的なものに絞ってやっていること。
歴史の授業で習った徳川吉宗の「公事方御定書」には、今の民法、商法の規定の元になるようなものが様々定められていることも知りませんでした。

例えば、江戸時代は倒産なんて言いません、じゃあなんていうのか?
「分散」と「身代限り」というのだそうです。
そして、債権者は債務者からどう返済してもらうのか?
今でもあることなんですが、当時の言い回し、言葉、やり方で読み解いていく。つまり崩し字だけ読めても固有の言葉の意味や、全く分からない背景を、つなげていく勉強会なのです。

その勉強会でこの夏から取り上げているのが「町人考見録」です。
この「町人考見録」は三井家の3代目の三井高房が,父高平(宗竺)の見聞した京都の有力商人の盛衰を筆記・編纂したもので、いわば戒めとしてのものなんだそうです。
今年三井越後屋が開店してから350年だそうで、それを記念し特別展「三井高利と越後屋―三井家創業期の事業と文化―」というのを開催して、この「町人考見録」も展示しているそうです。

抗議の補足で講師の先生が面白い資料を見せてくれました。それはこの「町人考見録」の中にある倒産・没落の理由の構成。

現在の主な倒産要因は
・不況型倒産(販売不振、輸出不振、売掛金回収難、不良債権累積、業界不振)
・放漫経営
・設備投資の失敗
・その他経営計画の失敗
に大別されるそうですが、

この「町人考見録」では
・大名貸し貸倒   31件
・贅沢・不行跡   16件
・贅沢      6件
・不届き     5件
・才覚不足    6件
・投機的事業展開 8件
・遊芸夢中    2件
・信仰深入り   2件
  合計      76件

となります。今から読み解き(翻刻)に進むので、読んでいかないとわかりませんが、売掛金回収難=大名貸し貸倒、経営計画の失敗=投機的事業展開にあたるでしょうが、江戸期の他の要因は今では「放漫経営」に括られるように思います。

単純に考えると、江戸期は株式会社とかでなく、経営と資本が一体であり、またそれは「家業」であったことによるのだと思います。確かに今でも「放漫経営」はあります。最近ではこんな事件も

鰺坂氏は不行跡や遊芸夢中に該当するのでしょうか。

しかし形としては資本と経営の分離があり、家業と経営の分離もありますから、無茶したら倒産する前に役員会や、社員にとっとと追い出されるのがタムロンに限らず普通です。
「放漫経営」は水面下ではあちらこちらにあり、表ざたになってないだけかもしれませんが、それでも経営者の自戒も少しはあり、減少しているのではないでしょうか。
逆に言えば、時代劇の富豪の大盤振る舞いや、若旦那の底なしの放蕩というのは、やはり事実だったのかもしれません。

まあその辺りも経営者の端くれである私は気をつけながら翻刻の勉強に取り組みます。

そう言えば講義で興味深いプロジェクトを紹介されていました。
それは「みんなで翻刻」。
AIも使いながら多数の人々が協力して史料の翻刻に参加して、歴史資料の解読を一挙に推し進めようというプロジェクトだそうです。

なるほど、ちょうど朝ドラで牧野富太郎氏の話をやっていますが、氏の一番の貢献は、帝大なんかの少数の専門家だけで植物を採集し、研究するのでなく、市井の人々に協力してもらい、植物採集をするというまさに「みんなで採集」というプロジェクト、ムーブメントにしたところにあるようです。
それと同じだし、その姿勢は青空文庫やWikiにも繋がりますね。

もちろんこういった勉強会に参加した後に行う復習というのは、とても大事なので、そういう意味でもいいプロジェクトだと思います。


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