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エウラリオとサニー

ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザの「過去を売る男」を読みました。

とても面白い設定であるとともに、なかなか深みのある文章でとても面白かったですが、もちろんアンゴラという南西アフリカの国の複雑な歴史と驚きのエンディングには引き込まれました。アンゴラはポルトガルの植民地だったので、公用語はポルトガル語、文中にもポルトガルやブラジルとの深い関係が現れ、もちろん音楽も互いに影響があったようです。アンゴラ出身で記憶にあるのは先日亡くなった「ウェイン・ショーター」氏の二番目の奥さん「アナ・マリア」です。彼女は飛行機事故で亡くなったのですが、彼女がウェインに「なぜ、あなたはミルトン・ナシメントと一緒にアルバムを作らないの?」という言葉をかけ、それを切っ掛けで名盤の「Native Dancer」が生まれ、アナの思い出で「アナ・マリア」という曲が生まれています。

「過去を売る男」には魅力的な女性(写真家)である「アンジェラ・ルシア」という登場人物が出ますが、なんとなくこの曲に重なります。最後辺りで彼女はポラロイドに撮影場所のメモをつけて主人公に送ってきます。

パラー州のベレン(ブラジル北部)、そこから少し東に行ったマラニョン州のサン・ルイス、カナリアス島(アマゾンの奥地、コロンビア)、リオ・デ・ジャネイロ、フォルタレーザ(大西洋岸、アンゴラの向かい辺り)とブラジルの風景のポラロイドなんですね。

この作家のテーマは「記憶」のようで、とても素晴らしい。その中に過去の記憶について表現している章がありました。

平凡な人生

「記憶とは、走る列車の窓から見る風景である。アカシアの木々を照らす曙光が次第に強くなり、果物のように朝をついばむ鳥たちが見える。遠くには、静かに流れる川と、川を抱く森が見える。家畜がのんびりと草を食み、一組の男女が手をつないで走り、少年たちが踊るようにサッカーに興じ、ボールは太陽のように輝いている(もう一つの太陽だ)。穏やかな湖と、そこで泳ぐ、重たい水が流れる川と、そこで喉の渇きを癒す象たちが見える。そうしたものがどんどん目の前を通り過ぎていく、どれも現実だとわかっているが、みんな遠くにあって、手で触れることは誰にもできない。すでに遠くに過ぎ去ったものもあるし、列車は猛スピードで走るので、われわれは、どれも本当にあった出来事なのか確信をもてずにいる。夢だったのかもしれない。自分の記憶が当てにならなくなったと言うが、それはただ、空が暗くなっただけなのだ。これが前世を思うときのわたしの気持ちだ。とぎれとぎれに思い出す事実は前後の脈絡がなく、広大な夢の断片である。」

なるほど、私が時々鈍行列車で、乗ることを目的にして、どこかに行くことや観光目当てでなく、ブラ俊哉旅行をするのはこの感覚、自分の過去の記憶をまさぐる旅なのかもしれません。

この本の主役は一匹のヤモリ。最初は名無しのヤモリですが、途中からご主人(同居人?)から「エウラリオ」という名前を付けられます。
タイトル写真は我が家に長年おられるヤモリの「サニー」氏(同じヤモリかどうかは不明ですが、多分同じ)。

サニーは女房が付けた名前ですが、なかなか良いと思います。もちろんサニーといえば私はアン・バートン氏の歌う「sunny」が大好きです。

この本ではご主人とエウラリオ氏は夢の中で会話し、互いに夢の記憶を共有するのですが、私もサニーと話をしてみようと思います。

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