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異人から始まった

母の日は土砂降りの夕方からこちら見に行きました。

上映前にロビーで入れ替えを待っていたら、この前に上映された映画が終わり、観客が出てくる中に友だちがいました。
「何見たん?」と聞くと「オッペンハイマー」との事。どうりで出てくる人に笑顔はなく、額に難し気な皺寄せて出てきてましたわ。
「鈴木は?」と聞かれたので「この次のリトル・リチャード」と答えると、相変わらず浮かれた奴じゃのうという視線でした。トホホ。

ですが映画見た後はニッコリしたいですよね。

もちろん映画を見て元気になりましたが、リトル・リチャードは元気になるだけじゃない、彼自身「黒人」「ゲイ」という差別される存在であることを公言した当時としては異端。さらに彼もは敬虔なキリスト教一家であっただけに「大衆音楽」「ゲイ」という主に背く存在でもあることに苦しみます。社会の偏見だけでなく、救いの道である宗教からも異端とされる自覚にも苦しみながら、自らの存在を肯定していくというドキュメントでもあります。

映画の中でコメントする人が、リチャードのことをゲイとは言わず、クイアと言っていました。クイアとは

そう、リチャードは手足の長さが左右違うという身体的なハンデもありましたから、様々な意味で異端扱いされる存在でしたが、それを肯定的に捉えるクイアという主張は誠にリチャードにふさわしいものでした。
だからメインストリームのど真ん中にいないクイアの彼こそが、全く新しいものを生み出す力を持ち、彼が生み出した音楽、彼がエブリシングであり、キング・オブ・ロックンロールだということがよくわかる映画でした。

残念なのは売店でリトル・リチャードのTシャツを買おうと思ったらMとジュニアサイズしかなかったこと。これ着て今夏過ごそうと思ったんだが。

さてクイアといえばこちらの方
黒人でありバイセクシャルですが、紛れもなく唯一無二の大歌手LADY DAYです。

さすがにNHKの地上波なので、あまり赤裸々な描き方はしませんでしたが、番組でも紹介された「ザ・ユナイテッド・ステイツ vs. ビリー・ホリデイ」での「アンドラ・デイ」の抜群の歌唱力と演技の映画をご覧になるとまた「奇妙な果実」を深く噛みしめることができるのでは。

さて、クイアを日本語でどう表すのかと考えましたが、「異人」なのかな。異人とは誰とも違う人、オンリーワンという肯定的な意味だと思ってください。
丁度公開された山田太一氏原作の「異人たちの夏」のリメイク映画「異人たち」が重なります。

異人とは様々な取り方がありますが、Wikiによると民俗学的にはこういう見方もあります。
「異人は、福を運んでくる存在として歓迎される(客人歓待)。一方で、禍をもたらす存在として排除されたり犠牲に供されもする」

なるほどクイアは福を運んでくる存在・来訪神でもあるから、リトル・リチャード、ビリー・ホリデイは素晴らしい音楽を私たちに与えていただいたのか。一方二人とも大きな逆境で苦しんだのも事実だから両方の意味でもやはり「異人」といえましょう。


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