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捕まえたら、逃がさない

今日のタイトル写真は「バロン吉元」画伯の展覧会で購入した絵葉書からです。

さて、これも驚いた本だった。著者のローナン・ファローはNBCの調査報道記者なのだが、この方なんとミア・ファローの息子。確かに有名大学卒だし、弁護士だし、イケメンです。
この作品の中でも紹介されているが姉(養女)は父ウディ・アレンから性被害(性暴力)を受けた経験があり、その弟さん(彼にとってはアレンは実父)なのだな。ついでながら養女はもう一人いて、彼女とアレンは後に結婚するという、まあ少々理解しがたいのでもある。

このノンフィクションは、ハリウッドのプロデューサー「ハーヴェイ・ワインスタイン」による性暴力を告発し、大騒動になった入り口を書いているのだが、最初ローナンがこの事件を掘り下げるも、NBCではなかなか取り上げない、その後ニューヨーカー等とローナンが連携して報道されるというのが三分の二くらい。
半分辺りからワインスタインが「ブラックキューブ」というイスラエルの秘密組織(会社)と連携し、ローナンの周辺を探りはじめるあたりで、アメリカのセレブとブラック業界の深い関係が出てきてどんどんキナ臭くなる。
ローナンが信頼した女性人権弁護士が実はワインスタインの代理人で情報収集していたというような映画さながらの話もあり、終盤の三分の一はそのブラック業界の癒着、浸透の話と、NBCの忖度(?)や自社でも性暴力があったことを隠していたことが露見して、大騒動になる所まで描かれている。

構図は丁度伊藤詩織さんが、元TBSワシントン支局長のジャーナリストの山口敬之から性暴力を受けた件とよく似ている。伊藤氏がワインスタインの被害者、山口がワインスタイン。それを取り上げないようにしたのが安倍政権下で当時の警視庁刑事部長だった現中村警察庁長官だったことはよく知られているから。セレブが安倍、ブラックキューブが中村という感じだろうか。実はワインスタインは以前も「ほぼ」現行犯で告発されているが、それをNYの検察は取り消したのにも似ているんじゃないかな。
もちろんこの事件にきちんと向き合わなかったTBSはNBCと似ているし、元とはいえ支局長が性犯罪をしたというのも似ている。
もしかしたら山口はこのワインスタインの手口をワシントン時代に学んでいたのかもしれんな。
アメリカのセレブの「何やっても大丈夫」という意識はトランプからも感じられるが(トランプの性犯罪も書かれている)、我が国の与党の政治家から感じられることでもある。特に岸田政権で任命された杉田水脈政務官、簗和生副大臣は厳然たる差別主義者、これもまた無理やりの正面突破かもしれんが、岸田政権は性差別を許すという姿勢の表れ以外の何物でもない。


これを読んでいて一番違うなと感じたのはNBC以外の米国マスメディアのこの事件に対する向き合い方だろう、なかにはゴシップやスキャンダルの興味をあおるものもあったのかもしれないが、ワインスタインから圧力がある中でそれでも向き合った姿勢は日本のメディアではなかなか見られない。日本だったら「お互い様だから」とか「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という「横一列」の凭れあいの姿勢だろうと思う。

もう一つはこの事件は#Me too運動の大きなうねりのきっかけにもなったが、それまで「性犯罪は絶対に許さない」という意識が、被害者や女性に限定されていたものが米国の社会の意識として当然、コンセンサスを獲得していく過程、つまり建前に過ぎなかった「性犯罪への姿勢」が本音に浸透していく過程も学ぶべきだと思ったのだ。

さて、この本のタイトルの「キャッチ・アンド・キル」というのは「もみ消しのためにネタを買い入れる=捕えて殺す」ということだそうで、それを訳者あとがきで詳しく書かれている。

「不正を世に出すべき報道機関でも、政界でも、学術界でも、金と力で告発者の口をふさいできた。権力者を守りたい組織は示談金と引き換えに被害者に秘密保持契約を結ばせ、口を開けば損害賠償を求めると脅かしていた。
告発者バッシングに加担したメディアも少なくない。ナショナル・エンクワイヤラー紙はハーヴェイ・ワインスタインと裏で手を結び、被害者女性のありもしないスキャンダルをこれでもかと書き立てた。(中略)こうした「スキャンダルを捕えて抹殺する」手法は「キャッチ・アンド・キル」と呼ばれ、一部のメディアの常套手段となっていた。」
日本でもかつて元環境大臣の石原氏が「最後は金目でしょ」といったり、沖縄の基地に対する振興予算もこのキャッチ・アンド・キルの露骨なものだが、それを容認するメディアもキャッチ・アンド・キルは許されるものと考えていると思う。といったところで我が国もこんな事件が報道中。

この辺りはテレビ局、松竹がどう対応するのか、また日本人がどう扱うのか比べるに良い試金石である。


最後に、この本の優れたところはローナンが挫けなかった理由にあるように思う。それは父からの性被害を告発した姉ディランに言われた言葉を守り抜いたところだろう。その言葉とは過去の傷を告発した女性の勇気に対して報道側がもつべき姿勢についてだ。
「もし捕まえたら、逃がさないで。わかった?」


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