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メモリーケア・フーバービル

「かくて彼女はヘレンとなった」という登場人物の8割以上が高齢者というミステリ小説を読んだのですが、米国の高齢者タウンの様子がわかりとても面白く、興味深かった。主題は高齢者じゃなくて違うところにあるんですが…。

日本とは違う高齢者の様子に驚いたのですが、その中に出てきた認知症になったお爺さんに関するところを抜き書きします。

「認知症が始まり、父親はだだそこにいるだけになった。混乱し、不安を抱え、虚ろになって、家具にしがみついたり、部屋の隅をのぞき込んだり、額縁の形をなぞったり、そして何よりも家の外を徘徊するようになった。(中略)ビリーはメモリーケア施設-看護師のいない介護施設のようなところ-を探した。」

アメリカでは認知症の人専門の施設をメモリーケア施設と呼ぶのだな。

それともう一冊、これもミステリーに入るのだと思うが

なかなか良かった。もう少し工夫があれば今年下期読んだ本のナンバーワンにしても良かったくらい。
これは1930年代のアメリカ西部のミネソタからセントルイスまで少年少女4人がミシシッピ川を下るのが主な舞台。
つまり世界恐慌が起きた時期で、この小説に登場する人は多くが貧しく、また家や畑を失い放浪している人が多数。今でいうスラムがミシシッピ川(ミネソタ川)川沿いの町に行くたびに現れるのですが、そういった掘立小屋が川沿いに建てられた場所がどこに行っても同じなんです。それは時の大統領の失政から「フーバービル(HooverVille)」と名付けられたそうで、アメリカで最大のブーバービルが舞台の目的地であるセントルイスにあることも知った。

さらにスー族の少年も登場しているので、ミネソタのマンケイトで38人のスー族が絞首刑にかけられたことも紹介している。
ミネソタは当時はアフロアメリカンは少なかったようで(この小説にもほとんど黒人は出ない)、北西部の差別はとにかくインディアン(ネイティブアメリカン)に対して強烈。でもユダヤ人に対する蔑視も凄い。
この中にレズビアンの素敵なカップルも登場するのですが、それは今風なのかもしれません。

おまけとして、今主人公(4人+α)の後日談が書かれていますが、読んでいない人はネタバレですから注意。
一人は太平洋戦争、神風特攻隊により空母撃沈で戦死(機関室責任者で最後まで艦に残ったので、海軍十字章を貰った)
一人はMLB(セントルイス・カージナルス)の選手として活躍後、ネイティブアメリカン権利獲得に多大な貢献
一人は信仰伝道集会で伝道師(予言)
最後の一人がメインの主人公ですが、彼も80歳まで生きて、彼が過去を振り返り、この小説を書いたという形式をとっています。
丁度映画のエンドロールで、登場人物はその後…というようなサービスたっぷりですが、このおまけは不要だったかな。
でも文中の「四人のさすらい人と黒い魔女」の話は大変印象深い。

ミステリ小説から知ることも多いんです。
最後にこの主人公はホーナーのハーモニカを吹くのですが、特に繰り返し演奏するのが「シェナンドー」。

Arlo Guthrieの動画ですが、背景がこの小説の雰囲気に重なり良いと思います。

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