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デーモンコア(魔物の心臓)

前作も面白かったですが、今作も凄く引き込まれました。もちろん完全文系の私にとってはちんぷんかんぷんのところも多くありましたけれど…。

この中の「青年科学者の命を奪ったデーモンコア(魔物の心臓)」にはゾッとしました。
広島、長崎に次いで東京に落とされる予定だった第三の核弾頭に関する話。実際にはこの核兵器は投下されることなく、ロスアラモスの研究所に戦後戻され、そこで青年科学者が臨界実験を同僚たちに見せている際の話でした。

「(ベリリウムの半球殻の)球の中では絶えず中性子が飛び交ってプルトニウムを分裂させ、そこからまた中性子が放出される。球のプルトニウムが仮にあとわずかに多ければ、プルトニウム分裂の連鎖反応が臨界に達して、この場に黙示録の世界が現前するであろう。
(中略)
 スローティンがドライバーを動かして、ベリリウムの蓋がより深く球体を覆うたび、放射線量測定器シンチレーション・カウンターが激しくパチパチと光るのが見られた。
 スローティンはこの臨界実験を、これまで何度もくり返していた。今日は同僚たちを招いての、ディスプレイ実験の晴れ舞台だったのである。
 一瞬、スローティンの手からドライバーがずれ落ちた。ベリリウムの二つの半球殻が、鈍い音を立てて閉じてしまった。
 青い閃光が見えた。全員が皮膚に焼けるような熱さを覚えた。」

タイトル写真は本にあったデーモンコアとスローティン氏です。
ドライバーを持ち至近距離にいたスローティンは9日後に死亡したそうです。章のタイトルの「デーモンコア(魔物の心臓)」はこのベリリウムの容器に入った臨界すれすれのプルトニウムです。
スローティンはそれを弄んでしまったという話ですが。スローティンは何度もこの実験をしていたので、自身は「安全にデーモンコアを操ることができる」と何の不安も疑問もなかったのだろうと思います。

先日来読んだ本で福島原発に関する本が数冊ありました。既に紹介済みですが伊澤理江さんの「黒い海 船は突然、深海へ消えた」は、遭難した船の船主のいわき市の野崎さんのことも書かれる中、氏が福島県漁連会長として「海洋放出に反対する」姿勢も描かれています。丁度先日も拝見しました。

そしてもう一冊は「核のごみをどうするか もう一つの原発問題」です。

この本も素晴らしかったです。原発再稼働や60年超稼働に(被爆地選出の)首相は前のめりですが、ほぼ語られていないのがこの「核のゴミ」のこと。知らなかったのは、もう少しで各原発におかれている使用済み核燃料の貯蓄プールが満杯になりそうだということでした。
東京新聞には

と出ていますが、もはや我が国は核のゴミ屋敷になりつつあるように思います。東京新聞はこの問題を深く書いていますが、地元紙はあまり…。地元の電力会社の広告等が優先なんでしょうね。先日も出ていました。

もう受け入れ先もない、また地震や火山に溢れて地殻変動のある我が国での地層処分というきれいごとだけ書いて、ゴミは何万年も先送りするという無責任な姿勢は、やはり新自由主義の「今だけ、金だけ、自分だけ」にいまだにドップリということでしょう。
「議席のある今だけやりすごせれば、電力・重電・建設会社からの金だけもらえれば、自分の寿命の内だけ誤魔化せたら」と首相らは思っているのでしょうし、こういう記事を掲載する新聞社も右に倣えで「金だけ」のメディアと思います。

実は彼らがわかっていないのは、スローティン氏のように、自分たちも「デーモンコア(魔物の心臓)」を弄んでいるということ。
もちろん軽々に核兵器の使用について口にする東西の核マニア(核保有国首脳)も同じ穴のムジナだし、核兵器を否定しない(被爆地選出の)首相も同罪、いやより悪質といってよいのではないでしょうか。


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