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見るたびに涙ぞまさる

盆休みの間に読んだ本の一つに「古本食堂」(原田ひ香)があった。本と食い物という私にストライクのタイトルなので借りたのだが、なかなか面白かった。主人公が急逝した親戚の古本屋を継ぐのがベースの連作。

主人公(大叔母とまた従姉妹の娘)は古本家業は素人で悪戦苦闘しながらも淡々とやっていく中で、来店した客に古本の紹介したり神保町界隈での食堂・テイクアウトの紹介というのが各章の流れ。
その第一章に登場するのが鮨なのだが、その紹介をしていくと「あれっ?これって」と思い当たりました。「笹巻けぬき鮨」であります。
私も以前読んだ本で吉田健一の「汽車旅の酒」というコラムでしったのです。
吉田氏が鉄道に乗って酒を飲む…まあそれだけの話なのですが、八高線の何でもない駅「児玉駅」にわざわざ行って、宿に泊まり、酒を飲むという話が淡々と語られて素晴らしい。
その行きの列車では「菊正」と「毛抜き鮨」を車中の友とするのだが、「菊正」は菊正宗かな。2時間の旅で飲み切れず、旅館でも飲んだとあるが、一升瓶ということはないだろうから、四合瓶かな…。
ということで、もう3年くらい前の出張の東京からの帰りの新幹線で頂いたのがこの写真。

確かに食べやすいし、美味しかった。もちろんワンカップにもピッタリだった。
で、この本を読むと食べたことのある店が何店も出て来る。
確かランチョンも吉田氏が行った店だったんじゃないかな、私も大学生の息子といったが美味しかったね。

カレーは洋風のボンディさん。これは都内に何か所かあるので、どこかの店で頂いた記憶がある。

他にも何か所か記憶のある店があるが、ここ数年旅行や出張も無いので、こういう店たちに再訪したいとしみじみ思います。
そうそう、古本のことも書いておこう。いくつも紹介がある中で、谷崎潤一郎の「三人法師」というのが紹介されていた。これは「青空文庫」で読めるので、早速読んでみたがなかなかだった。

この「古本食堂」も、来店するお客さんは自分の読みたい本を探す人もいれば、店主に相談する人もいる。もちろん店主はお客さんと話をする中で、お薦めする本を会話の中から探していくわけだ。
読みたい本が偏る密林なんかのオススメやレコメンドというのは、今まで読んだ本の傾向の範疇にある作品で、それ以外の作品に出遭うことはないだろうから、その辺がリアル本屋さんの存在意義でもある。
私も今回この「古本食堂」で私は「三人法師」にめぐりあい、とても良かったと思う。

今朝の地元紙には先年放漫経営で実質破綻したフタバ図書の宇品の店が閉店とあった。

フタバ図書は紙屋町の店も閉鎖(売却後はオフィスビルになるとか)、広島駅の店はアパホテルになるそうだ。結局営業譲渡企業のなかの日本出版販売、蔦屋書店あたりは、採算ベースの店だけ残して、あと出資している金融機関は不動産を早々に売却して手を引きたいということだろう。フタバ図書で「どんな本がいいですか?」と聞ける書店員さんはいなくなるんだろうな。

で、三人法師の中にあった和歌です。
「見るたびに涙ぞまさる玉手箱
   ふたおや共になしと思へば」

「見るたびに涙ぞまさるギガ書店
   ふたば破綻でなしと思えば」ですわ

一方こちらは小さな書店さんのイベント「海を見ながら本を読む」なんてすてきだ。

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