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正しい道筋

先日図書館からカフカの「カフカ断片集―海辺の貝殻のようにうつろで、ひと足でふみつぶされそうだ―」を借りて読んでいます。

カフカ節というか、わずかな断片でもカフカの作品だなと思う素晴らしさ。
その中にこのような短い断片がありました。

「正しい道筋」
正しい道筋を永遠に失ってしまった。
そのことを、人々はなんとも深く確信している。
そして、なんとも無関心でいる。

先日ETV特集で見たこちら「無差別爆撃を問う 〜弁護士たちのBC級横浜裁判〜」
見ごたえがありました。話としては先の大戦で会った米軍による無差別爆撃は国際法違反ではないかということの検証を、戦時下で空襲したあと捕虜になった米兵の扱い、軍律審判(軍事法廷)での裁きが正しいのかどうかというBC級横浜裁判から探るもの。
焦点の一つは捕虜になる前に行った爆撃は無差別爆撃なのかどうか、無差別爆撃であれば国際法違反なので、軍律審判で有罪となり死刑(銃殺)になるのは法の裁きとして正しい。
裁く法の根拠としては「兵を利用し民衆を害するものは死刑に処す」という条文の「民衆を害する」は「無差別爆撃」がそれに該当するので、「無差別」か「ピンポイント」かどうなのかが争われたBC級戦犯裁判でもあります。
その記録を詳細に追いかけて、解きほぐす姿を一部ドキュメント風に再現しながら作られた番組です。

その中で裁判官・検事役にあたる軍人の法務官役を佐野史郎氏が務めておられましたが、佐野氏ってこんないい役者だったっけと心底感心しました。

終わりの辺で、日本に対して無差別爆撃の事実はあっても、法的な責任を認めないまま終了したBC旧横浜裁判でしたが、取り組んだ方はその後「原爆裁判」を起こしました。それは講和条約を結んだ米国相手ではなく、国際法違反だとして日本政府を訴えたものでした。そしてその裁判を裁いたお一人が朝ドラの「虎に翼」のモデルの三淵裁判官だそうです。
判決には
「広島、長崎両市に対する原子爆弾による爆撃は、無防守都市に対する無差別爆撃として、当時の国際法からみて違法な戦闘行為。原子爆弾のもたらす苦痛は、毒、毒ガス以上で、不必要な苦痛を与えてはならないという戦争法の基本原則に違反している」

そして番組では、その原爆裁判をもとにハーグでは無差別爆撃について、さらに突っ込んだ規則を定めたこともこのように説明されていました。

「1996年、国際司法裁判所は核兵器の使用や威嚇は、武力紛争において適用される国際法の規則には一般的に反すると初めて勧告した。
無差別爆撃について国際法はより厳しく禁じている。
軍事目標になっても市民を過度に巻き込む爆撃は禁止するとしている。」

でもこれに続くのが

「しかしアメリカ、イスラエルは批准していない。」

という言葉でした。
だからイスラエルは無差別爆撃を繰り返し、アメリカも無差別爆撃を許しているということなのでしょう。それは先の大戦で民間人を無差別大量虐殺した事実に目をふさいだ過去の黒歴史が報の正義を拘束しているということでもありますから。
カフカの断片のように「正しい道筋を永遠に失ってしまった」のでしょうか。過去の間違いは嫌なものであったにしても、やはり真正面から正していかなければならないし、それが後の国民に対する責任だということでしょう。
ユダヤ系チェコ人の彼の言葉ですが、今のイスラエルの人々が、彼らの子孫にどれだけの負債を与えてしまっているのかわかってはいないのでしょう。

この無差別爆撃、核使用に対して批准しない国々と、どう親交を深めていくのか、悩み深き問題ですが、「なんとも無関心」あってはなりません。


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