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技術革新を受け止める社会構築は二世代かかる

先月読んだ本で印象的だったものに「減速する素晴らしき世界」(ダニー・ドーリング)がありました。1月26日に「在所の…」のタイトルでアップしましたが、そこでは書かなかったけれど、とても印象深いことがありました。それは世界は変化をしていくのだけどその変化の時間軸が2世代以上の期間がかかるとあり、大変興味深いものだったんです。

ドーリング博士の節の一つに人口動態の変化があり、かつてはどんどん人口が増えてどうにもならなくなるといった言説が主流でしたが、既に世界の人口増は頭打ちになって、いくつかの国(日本など)は減少傾向がはっきりでているというものでした。

これは縦軸は人口の絶対的な数(人数)で、横軸はその増減の率。戦後のベビーブームの頃はなんと増加率が2.5%近くもあったけれど、その後は徐々に率は落ち、2010年からは減少して、人口も減るようになり、2065年が減少率の最低となるというとても興味深いものでした。

さてもう一つビックリしたのが、いわゆる○世代という話で
「世代の幅は25年前後とされることが多い。しかし、平均すると初経は13歳頃にきて、閉経は51歳頃にくる。したがって、現代的な避妊法は広まる前については25歳と38歳の間を取って、32年として推計する方が良いかもしれない。表7は、その水系や他のデータをもとに、世界の過去35世代を区分して示したものである。各世代に生まれた君主を付記しているのは、イギリスの歴史を知っている人に何らかの文脈を与えるためだ。」

つまり巷使われる「Z世代」はウィリアム皇太子の息子のジョージの世代ということになり、私はダイアナ世代だからX世代ということになります。
この本の興味深いところは、変化は始まっていてもそれが流れとして実際の変化を感じるまでは2世代くらいかかる。つまり50~60年経って初めて変わったことに実感するということです。人口減も日本では1972年以降はっきりと出ていたにも変わらず、「結婚を進めましょう、子どもを増やしましょう」という表面的なスローガンに終始し、この変化の流れから目をそらしていた結果が今、1972年から50年経った時なのです。
年寄りは増えても、今の制度では子どもは増えないのだから、自民党や統一教会が一生懸命守ってきた「家庭制度」を壊していかなければ、ただただ流れていくだけです(あくまで制度を壊すので、家庭を壊すということではありませんよ)。

言いたいのは、社会が変わり始めても、本当に変わったと認識するには時間がかかる。それは2世代以上、50~60年かかるということです。いくら技術革新のスピードが上がっても、それを受け止める社会の意識は2世代以上たたないと変わらないということだと思います。

昨今ニュースで取り上げられているのが「Chat GPT」です。

確かに大変な技術ですが、これは技術に過ぎません。どれをどう使うか社会がどう受け止めるかはやはり二世代かかると思うのです。それは技術的なことではなく、哲学的なことが遅れるからだと思っています。

PCが世界に広がったのは1980年代からで、広く家庭に入り始めたのは1990年代の後半からでしょう。インターネットが爆発的に広がったのは90年代後半。するとPCですら40年、インターネットは30年程度。携帯電話がデジタル化したのは2000年、更にスマホになるとiPhoneが登場したのが2007年でしたから、まだ25年程度。するとPCやインターネットがようやく二番目の世代にはいったところで、スマホはまだ最初の世代。つまり使ってはいても社会がそれを受け止められるまで成熟していないと思います。
だから、PC、インターネットのハッキング、詐欺。スマホを中心としたSNSの様々なトラブルが起きるのです。技術はあっても社会が未成熟だからでしょう。成熟するには技術的じゃなくて、哲学的な示唆が必要です。便利だから使うだけでは、哲学的な裏付けは生まれません。

このChat GPTもそうです。NHKの番組もそうですが、見ているのは技術的な先取り感だけ。大事なのは2世代をかけて社会が容認するように仕上げていくということでしょう。
ドーリング博士はスローダウンの時代には技術革新もスローダウンすると指摘しています。既にLSIのムーアの法則は頭打ちになってきていることから、ドーリング博士の本にはこういう文章もありました。

「変化が緩やかになる未来では、巧妙なごまかしや、人間の心理を利用した手口はもう通用しなくなる。なぜならそれはもはや新しいものではないからだ。技術のイノベーションがスローダウンして、新しいものが少なくなっている場合には特にそうである。
(中略)
スローダウンが進むと、制度や私たちが暮らす家はこれまでのようには変化しなくなるが、私たちの態度はそれよりも急速に変化するだろう。スローダウンの時代には、お互いがお互いをもっと気遣うようになり、将来の見返りを求めなくなっていく。私たちの祖父母は次々に生まれる新しいものに対処することに追われて、疑問を持つ余裕などなかった。スローダウンの時代になると、あらゆることを疑い、考える時間が増える。」

私たちは今の若者であるZ世代、そしてその次の世代であるα世代になってようやくインターネットが安全に使える社会を迎え、さらにβ世代にバトンタッチする頃になってようやく玉石混交のSNSが安心に使えることのできる時代になるのではないでしょうか。その為には50~60年かけて、PC、インターネット、SNSさらにAIの倫理、哲学を組み上げていかなければならないと思います。

タイトル写真はショートメールで送られてきた引っ掛けです。

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